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「龍大、久しぶり」
待ち合わせ場所で二人で待っていると、ひらひらと手を振りながら駆けてくる小柄な人影がそう声をかけてきた。
「陽太」
「うわ、バイクかっこいーな…」
陽太、と呼ばれたその小柄なひとは、龍大と聖のバイクに目を輝かせた。
聖は、自身も小柄なことをかなり気にしている。
大学生になってしまった今となっては、これから身長がぐんぐん伸びるというのはもう期待できないだろう。
長身の叔父ではなく、やはり小柄な父親に似てしまったのだ。
だから、同じように小柄な陽太に、勝手に親近感を覚えた。
「俺、龍大のトモダチの柳沼聖」
今日からお世話になります。
ペコリと丁寧に頭を下げた聖に、同じように親近感を覚えたらしい陽太もニコッと笑って自己紹介する。
「俺は、本宮陽太。えっと、同い年だし、敬語はなしでいこ?」
昨今の若者はあまり車やバイクなんかに興味を持たないとは言うけれど、実際に目の前で見るとやっぱり男の子としてはワクワクするものだ。
陽太はかなりバイクに興味を惹かれているらしい。
「触ってみてもいい?」
「もちろん」
「すごいおっきいバイク乗ってんだな、これって大型?」
興奮気味な陽太だけれども、恐る恐るといったふうにバイクに触れる。
壊したら大変、という思いがそんな感じにさせたのだ。
そのとき。
「陽太は車よりバイクがイイか?」
不意に降ってきた第三者の声に、三人の大学生が同時に振り返る。
「鷹城さん」
陽太がそう呼びかける。
龍大も聖も、ポカンと口を開けて固まってしまった。
その男が、あまりにも浮き世離れした容姿だったからだ。
アッシュグレーの髪に、灰青色の瞳。
ハーフなのだろうか、まるで二次元から飛び出してきたような端正な顔立ち。
龍大だって、軽く180センチを超えている長身なのに、その龍大よりも明らかに背が高い。
二人の知る限り、最も大きいであろう龍大の兄と同じぐらいか、もしかしたら更に大きいかもしれない。
「言いそびれてたんだけどさ、えっと、こちら、同居人の鷹城さん」
陽太は、言葉の出ない二人に、少しモジモジとそうそのひとを紹介した。
「同居人てゆーか、俺も居候っていうか…」
「My precious、そんな他人行儀な呼び方すると拗ねるよ?」
鷹城と紹介された男は、陽太の説明を遮って、彼の腰に手を回した。
小柄な陽太は、すっぽりとその男の腕の中に収まってしまう。
「一週間も泊まって貰うんだろ?ちゃんと紹介してくんなきゃ、お互いに気まずくなるかもしんねえじゃん?」
言っとくけど、俺は君に触れるの、我慢しないからな?
ああ、そういう関係なのか、とすぐにわかる距離感だ。
龍大は、隣に立つ聖をチラリと見る。
聖は意外にも、顔を赤らめたり挙動不審になるとかでもなく、通常運転だ。
冷静に状況を判断したらしい。
「二人は恋人なんだ?」
お邪魔してしまってスミマセン、と頭を下げている。
「タツが空気読まねえから、なんか急に押しかけることになったけど、日中はほとんどツーリングに出るし、あんまり邪魔にならないようにします」
龍大も、慌てて一緒に頭を下げた。
「マジで悪ぃな、陽太…恋人と住んでんなら、先にそう言ってくれりゃあよかったのに」
知ってたら俺だって空気読んだっつの。
「いいの、俺、龍大に久々に会いたかったし、それにその、聖のことだろ?お前がいつも話してた大事なひとって」
龍大の大事なひとに会えてよかった。
そう言って、陽太はにっこり笑った。
と、鷹城が突然悶絶する。
「ああっ!陽太、その顔、マジ可愛すぎだから!天使すぎ、ホントもうそんな顔あちこちで振り撒かないで、罪過ぎだから」
いや、確かに陽太の笑顔はとても可愛らしくて、聖もなんだか癒される感じがしたけれども。
大袈裟過ぎない?と思われる反応に、あっけに取られて言葉が出ない。
「ちょっ…鷹城さんっ、外、ここ、外ですから!」
唇を顔中に押しつけられそうになって、両手でそれを阻止する陽太のそんな言葉に、外じゃなきゃいいのか?とこっそりツッコミを入れつつ、聖はそっと龍大を見上げた。
龍大も、聖を見ていた。
目が合って、二人は同時にプッと吹き出す。
周りに比較的イケメンが多くて、かっこいい人を見慣れている二人でさえ度肝を抜かれるような容姿の鷹城の、その中身とのギャップが面白すぎたのだ。
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