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おまけ~中津川の憂鬱~
中津川晴明26歳、独身、彼女なし。
職業、極道。
現在は、組の次代を担う坊っちゃんの護衛役だ。
中学の頃から札付きの悪ガキで、警察のお世話になることもしばしば。
高校にはなんとか行ったものの、三ヶ月で退学。
後はもう、お決まりのような人生だった。
仕事をするにしても、すぐに他の従業員や客と喧嘩になるので長くは続かない。
しかし、人生の転機になった出来事が、17歳のときにあった。
例によって仕事をクビになり、むしゃくしゃして歩いていた中津川は、肩がぶつかったスーツの男に喧嘩を売ったのだ。
狂犬さながらの勢いで飛びかかった彼を、そのスーツの男は、じゃれつく子犬をいなすかのごとく、あっさりと撃退した。
カッコイイ、と中津川は雷に打たれたかのように全身に痺れが走るのを感じた。
つまんない人生を送ってきてる自覚はあった。
だけど。
そのひとに出逢って、彼は心の底から尊敬する相手をみつけたのだ。
即、弟子にしてくれ、と頭を下げた。
土下座さえした。
なんだかわからないけれど、そのひとを逃したら、もう一生後悔するような気がしたのだ。
そのひとの名前は、高原、と言った。
中津川も名前だけはよく知っている、関東一円を牛耳る宇賀神会の若頭補佐、という立場の人だと知ったのは、それからしばらくしてからだ。
見た目はどこにでもいる普通の、割とイケメンなサラリーマンのようだったから、そんな大物だとは思いもよらなかったのだが。
高原は、中津川を拾ってくれた。
但し、物凄く厳しい教育を受けさせられることになった。
それでも、これまでのくだらない人生を変える何かが待っている、と思わせるだけの魅力が、彼を受け入れてくれた新しい世界にはあったのだ。
だから、彼は必死で頑張った。
これまでの人生でこんなに頑張ったことはなかった。
その甲斐あって、20歳のときに、宇賀神会会長の次男坊の護衛に抜擢されたのだ。
彼の憧れというか、最早「神」と崇めている高原は、会長の長男である若頭の護衛兼右腕として働いている。
まさかの同じような立場に、中津川は舞い上がった。
誠心誠意勤めて、高原にも認めて貰いたい。
そう思っていたのだが。
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