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とんでもないと尚季は思った。うさ耳とちびすけを見られたくないからペットサロンにしたのに、こんなよく喋るご婦人たちに囲まれたら、そのうち、円形脱毛症がどのくらいか見せてごらんなさいよ。医者を紹介してあげるわよと絡まれるに違いない。
「申し訳ありませんが、私も獣医の免許を持っているので、動物たちの健康に役立てたいのです。どうぞ2時間経ったら、お迎えに来て頂けますか?」
しょうがないわねと豊島さんは、椅子から体格通り重い腰をあげ、よろしくねと言い残してログハウスから出て行った。
こちらの窓からは死角になっている門が閉まる音が聞こえて、尚季はほっとして中折れ帽を脱いだ。びよ~んと飛びしたのは、髪と同じ色のごげ茶色のうさ耳で、ペット用のテーブルに載ったマルゲリータが、驚きで目を見開き、バウバウと吠える。
「何それ? びっくりするじゃない! 変なもの頭につけて。あなた人間じゃないの? 」
「人間だよ。ほら肩に降りてきたのが、ツバメのヒナのちびすけだ。よろしくな」
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