人魚がいた頃

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 一個体に過ぎない彼女が、一足飛びに地上の人間と同じ形態に進化する──果たしてそんなことは可能なのだろうか?  なんとなく、あり得る気がした。なにしろそれは先達、すなわち我々の祖先がすでに踏んでいるプロセスなのだ。おそらくは深い森の中で轍を辿るようなものなのだろう。  しかしそれを待っているわけにもいかなかった。彼女は快方に向かっていたし、私の稼ぎではより広い居住環境を提供することは不可能だった。
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