人魚がいた頃

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 別れの前夜、人魚は歌をうたった。 「ラジオでたくさん覚えたのよ」近所迷惑だからと私が止めようとすると、彼女は酔眼で睨め付けた。「今日くらいはいいでしょ」  彼女に酒を与えたことを、私は猛省した。  流行りのJ-POPから古い洋楽、果てはやくたいも無いコマーシャル・ソングまで、彼女はのべつ幕なしにうたい続けた。  人魚の歌はたどたどしかったが、聴くものの心を震わせる何かがあった。  彼女と共に、海に没したい。  一瞬、そんな欲に駆られたのを覚えている。  幸いなことに、彼女を海に送る頃には、その衝動も収まっていたのだが。
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