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「ね、ちょっとここ触ってみて」
長い臥床の末に目を覚ますと、人魚がすぐ隣で横になっていた。
「体に障るぞ、戻ってろ。俺はもう大丈夫だから」
「いいから、ここ」
彼女は腹鰭を指していた。
言われるままに触れてみると、骨の感触があった。ちょうど地上の人間の、足指と同じ感触だ。
「この間まで、こんなのなかったのよ」人魚はどこか楽しそうに言った。「長い闘病生活のせいかしらね。ご先祖様に起こったのと同じ現象が、私にも起きたみたい」
「ご先祖様?」
「初めて陸に上がった魚のこと」
子供時代にボロボロになるまで読んだ古生物図鑑の一ページを、私は思い出した──その魚は、確かユーステノプテロンとかいう名だったはずだ。鰭に指を有し、肺呼吸をしていたという、恐竜よりも昔の魚。
「そう遠くない将来、私もあなたと同じになれるかもしれない。歩くって、どんな感じかしら」
「わかったから、もう戻れ」
地上を這う人魚の姿は、ちょっとしたホラーである。
髪を振り乱し、腕の力だけで進むのだ。正面から見るべきではない。
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