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俺の悪い癖
「なんでもないよ」
なんて
嘘をついた
それは、誰もが一度は使ったと思う
ありふれた嘘なのに
その一言が
俺の首を
緩やかに締めた
「フラン…ス…?」
「…前から決めてたんだ。もっと、レベルの高いところで…指揮者として挑戦したいって」
俺の名前は清水勇気
フランスに行くって言ってるのは
細見琢磨。俺の恋人だ
「だって…そんなの…一言も…」
細見は音楽が好きで
「…言ったら、止めるだろ?」
指揮者は音楽を操っているみたいでカッコいい…って
よく言ってた
「っ…!そ…れは…」
ずっと応援してきたし
出来る限りの援助もしてきた
その結果
離れ離れになってしまうなんて
「っ…俺は…」
認めない
「…」
「……応援…するよ…」
「え…」
あぁ
「…当然だろ?俺はお前の恋人で、一番の親友なんだぜ?」
悪い癖だ
「お前が…お前の意思で決めたらなら、俺は応援するよ…」
嫌なことがあっても
「…そっか。ありがとう…俺、止められると思ってたから…」
嫌われるのが怖くて
「止めねーよ…俺は…お前の恋人なんだから…」
つい、反対のことを言ってしまう
「…ありがとう。応援してくれて嬉しいよ」
「うん…なぁ、いつから行くの?」
「一週間後。見送り、来てくれよな」
「もちろん。行かないわけないだろ?」
あぁ
心に刺さる
お前の笑顔と
俺の言葉が
「…じゃあな。清水」
行ってしまう
「うん…体に気をつけてな…」
「遊びに来いよ。待ってるから」
細見が行ってしまう
「うん…絶対行くよ…」
「向こう、着いたら電話するよ。…毎日、電話しような」
引き止めたい
「待ってるから…」
「また、そのうちな」
ここにいてほしい
「っ…細見!」
「…?」
フランスになんか行かないで
「お…俺…」
「…」
俺のそばにいてほしい
「俺…俺は…!」
「もう…流石に出たよな…」
何も
『…なんでもないよ』
言えなかった
「お前と一緒にいたい…」
今になって
「フランスになんか行かないで…」
溢れ出てくる
「俺のそばにいて…」
言いたかった言葉が
「行かないで…行かないでよ…」
涙とともに
俺の口から
全部溢れ出てくる
「行かないで…そばにいて…俺の涙を拭いてよ…」
俺は細見が好きだ
大切な
俺の恋人だ
それでも
それでも俺は
あいつに
嫌なことを、「嫌だ」と言えたことは
まだないし
きっとこれからも
ない
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