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翌朝の話し
その後、何も変わらなかった、みたいになると思っていた。
◆
涙をぬぐってもらった後、手をつないで同じベッドで眠った。
これが嘘じゃないって思えるようにずっとずっと起きていたかったのに、やさしく頭を撫でられてつい眠ってしまった。
とてももったいない事をしてしまった。
でも気持ち悪いって言われたらどうしようって禄に眠れていなかったのでどうにもならなかった。
明日になったら全部無かった事になっているのかもしれないのだから、なるべく長くこの幸せな気分を味わっておきたかった。
朝起きて、ぼんやりとしたまま違和感に気がつく。
視界がどうとかとかそういう問題ではない。勿論視界いっぱいの野々宮君もどうしたらいいのか分からないのだけれど、それ以上に野々宮君に抱き込まれているという事実にどうしたらいいかわからない。
何とか野々宮君が起きる前に、この腕から抜け出したほうがいいのか、二度とないかもこの瞬間をもう少し味わっておいた方がいいのかもよく分からなくて、もぞもぞと動いてしまったのがいけなかったのだろう。
野々宮君が起きてしまった。
「おはよう。」
起きた野々宮君は僕をぼんやりと見た後、テレビの中でも現実でも一度も見たことの無い優しげな笑みを浮かべて朝の挨拶をした。
「おはよう、野々宮君。」
おずおずとぼくが言うと、「もう少しこのまま寝てるか?」と野々宮君が聞く。
なんて答えていいか分からないし、こういうときにどうしたらいいのか分からない。
耳まで熱い気がするので今は多分ゆでだこみたいに真っ赤だろうということしか状況を認識できない。
「ワイドショーのあれが落ち着くまでは露出は控えめらしいから、今日もオフ……って園宮?」
「腕……。」
「腕?」
ぼくの言ったことを復唱して、それからようやくぼくがなにが言いたいのか分かった様で「昨日のことはちゃんと覚えているのか?」と聞かれた。
ぼくが頷くと「恋人同士ならいいだろ?」と聞かれる。
話している最中も野々宮君は終微笑んでいて、そんな表情初めてでどうしたらいいかわからない。
「なんで、そんなに優しいの?」
恋人と呼ばれる人が人生においていた事が無いので、昨日よりずっと優しげな野々宮君に戸惑ってしまう。
そういうものなのかどうかも分からないし、野々宮君のあまりの変化にどうしていいのか分からない。
「園宮に好かれたいし、それに……笑っていて欲しいから。」
野々宮君は言う。
「嬉しいです。」
嬉しかった。野々宮君がそういう風に思ってくれていて嬉しかった。
「園宮、真っ赤だ。」
うなじから首筋にかけてを撫でられて思わず震えてしまう。
野々宮君がまた笑った。
「ご、ご飯作ろうか?」
その甘いような少し恥ずかしいような雰囲気に耐えられなくなってしまったぼくは、思わず声をかけると野々宮君は「甘い卵焼きが食べたい。」と言って笑顔を浮かべた。
了
お題:恋人になった後の幸せな話、嬉し涙に変わった後の二人の姿
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