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解散後、実家の商売をついだ。
たまに趣味で日曜の昼は帽子を被り、一路上ミュージシャンとしてこうして歌っている。
さあ、あと一曲弾き語ったら帰ろうとしたとき、
ふと前をむくと、
懐かしい笑顔がいた。
「やあ」
「おお」
元バンドメンバーでデビューよりずいぶん前に脱退し、別れた彼女イチカだった。
高校の軽音部の華だった。凛とした美人ちゃんで、才能に溢れてた。
「一緒にバンドしよっ」
始まりは君だった。君がいたから、できた曲を思わず歌う。
青春のラブソング。
イチカと出会ってからの人生が楽しかったな。夜遅くまでよく電話をしたな。
かけがえのない時を共にすごしたな。
「奥さん美人ですね」
「そこだけ独り歩きしてますか。その噂だけ」
ほんとはイチカと結婚したかったな。
イチカが僕の横に立ち、唇を動かした。コーラスで入ってきた。
ドラムとコーラスが担当だった彼女。
輝いていたあの頃。100%青春だったね。
いつもライブ後の反省会で励ましてくれたね。
イチカの横顔をみるとストップモーションしたみたいに、
感極まって歌えず、マイクを彼女に向けた。
イチカのあの頃と変わらない好きだった声が聞こえた。
青い空をみると、ライブを積み重ねてきたあの頃の自分になれた。
「幸せだなぁ」とつぶやく。
曲が終わり、もう一度、イチカを見ようとしたら、消えていた。
そうだ、今日は命日かも知れない。バイク事故で亡くなったんだよな。
もうこの世にはいないんだね。
思い出がバックビートしただけか。
記憶を封印してたが、たしか最初で最後の大阪城ホールでのライブの
チケットも仏壇に供えてもらったよな。
「イチカ・・ありがとうな」
片づけをしながら、再結成して熟年バンドを組むのも悪くないと思った。
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