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最近のファッションは
ー孫娘の服の買いに来たのだと言う。
ショッピングモールの若い子向けのショップ店員は、試着室の前で小柄なおばあさんの話し相手となっていた。
「〜だからねぇ、私なんかは若い子達の服装がイマイチわからなくてねぇ。店員さんにアドバイスしてもらおうと思って。」
「もちろんです。」と接客用の笑顔を向けると同時にシャッとカーテンが開いた。
おそらく高校生くらいの女の子がウチの商品を着て少し照れくさそうに「どうかな?」と小首を傾げた。
恥じらう姿を微笑ましく思いながら「よくお似合いですよ。」と声をかける。
-どうやらおばあさんも気に入ったようだった。
試着していたのは白地の花柄ワンピースとデニムジャケットだが、1つ気になる点が。
接客用に声をワントーン上げ、にっこりと「失礼しますねー。」ジャケットの袖を少し捲り、肩を落としてやや背中をダボっとさせる。
それらを手早くしながら不思議そうな2人に説明する。
「抜け感って言いまして、最近はこうやってダボっと着たり少し肌見せて着るんですよー。」
少女の方は聞き覚えがあったのか、「あぁ…。」と納得顔だったがおばあさんは驚きと感心が混ざったような表情だった。
「あら、今の子はこういう風に着るのねぇ。でも前が短くって後ろがダボダボしてて大丈夫なのかしら。」
店員は安心させるように笑顔で応えた。
「大丈夫ですよ。むしろきっちり着ていると野暮ったくなってしまうんです。」
「あらあ、そうなのね。知らなかったら孫を見て"ちゃんと着なさい!"って上着を引っ張っちゃいそうねぇ。ふふふ。」
小柄なおばあさんは肩をすくめて少女ように可愛らしく笑った。こういうところがそっくりだと思った。
久しぶりにゆったりとした雰囲気が店内に流れていた。
そのままお買い上げいただいて、品物をお渡しした。
「ありがとうございます。」と礼儀正しく受け取ったのは少女で、おばあさんは店員に笑顔を向けた。
「あんな風に着るなんて知らなかったから店員さんがいてくれてよかったわ。最近の若者のファッションは私にはよくわからないから。店員さん、ありがとうね。」
店員としては仕事をしただけ、でもこうやって感謝されれば心がポカポカと暖かくなる。
-ほのぼのとした日曜の午後3時だった。
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