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大木に飛び込んだミイラたちは、瞬時に真っ暗な闇の中へと包まれた。
その闇の中、5人は落下しているのか、上昇しているのかわからなかった。真っ暗な闇が次第に真っ白な光へと変わっていく。その変化を目にしながら、5人は足元に光煌めく幻想的な世界へと降り立った。
それは降り立ったという感じではなかった。
足元から世界が広がり始めたという感覚だ。
「ここは・・・・?」
ミイラが足元の世界へと触れようとすると、水面のような足元を触れた瞬間、『フォー・・・ン・・・』と響き、丸い小波を描いた。
描かれた小波は次第に広がっていく。その先からは1Dから3Dのような立体的な波へと変化した。
「美しい・・・・」とキャラが囁く。
その波は丸いトンネルの中を静かに5人から離れて行った。
「これは・・・」
ナースがその流れて行く様を見つめながら囁くと、エルフィムが奇妙な形をした帽子を手にして現れた。
「あぁ・・・。勝手に風を起こしちゃって・・・。まっ、いいですけど。それじゃあ、皆さん、この風起こしの帽子を被ってください」と説明しながら一人一人に帽子を手渡した。
「なに・・・、この帽子?」と渡された赤い帽子を見ての印象を口にした。
「これは、風起こしの帽子といいまして、この色の帽子は南から進む専用の帽子です」とエルフィムが話す後ろから、水色の帽子を被った団体がやってきた。
「あれは・・・?」とミイラがエルフィムに聞いた。
「えっ?あっ、あれは北風の集団ですね・・・」とエルフィムが答えた。
「あの北風の集団が過ぎたら、私たちが行く番です。この順番を逃すと、次は東と西、北と来る集団を待たないといけなくなります」とエルフィムが説明した。
「ただし、この帽子を絶対に被っていないと、この道を渡り切る事が出来なくなります。途中で帽子が外れたり、脱いだりしたらこの道を途中で渡るのを辞めたとみなされて、その場所で道からおいて行かれます」
その言葉を言い終えると、エルフィムは赤い帽子を被って行く先へと向き直った。
5人もエルフィムに倣って赤い帽子を被ると、エルフィムの後ろへ一列に並んで、同じ方向へと向いた。
5人が向けた視線の先には、幾重にも重なる鏡のような景色が続いていた。
表現のしかたが難しいとミイラは思った。ただ、例えるなら幾重にも波を打つバウムクーヘンの表面と裏がひっくり返ったような景色が目の前に広がっている。その向こうには波の一つ一つに違う外の景色が映っていた。
「行きましょう」
エルフィムはそう叫ぶと、ゆっくりと一歩歩み出した。
その後をミイラ、チェック、ナース、キャラ、アニメと続く。6人が歩き出すと足音の代わりにヒュー、ヒューと音が響く。その音に合わせて、ガラスのようなバウムクーヘンの外に映る30cmにも満たない景色の森や林、草原が波を打って行く。
「あれは・・・?」とチェックがエルフィムに聞いた。
「あれは、私たちの歩く動きに合わせて巻き起こった風が吹いて行く様子です」とエルフィムが答えた。
「風の道って・・・、ここを通る人たちの動きで風を巻き起こしているの?」とナースが驚きながら聞いた。
「えぇ・・・。ここを歩くスピードよって風の強さが決まります。今日は天気がいいのでゆっくりと歩いて行きましょう。走ってはダメです。走っては」とエルフィムが注意した。
「それでも、ゆっくりと歩いて行っても、目的の湖まではもうしばらくです」とエルフィムが続けた。
6人は周りの景色が映りゆく中、森の景色は林に変わり、林の景色は草原と変わり、再び森の景色が見えると目の前に湖が急に広がった。
「ここです。一斉に帽子を取りましょう。脱いでください!」とエルフィムが叫ぶ。
5人も一斉に帽子を脱ぐ。帽子を脱いだ順番によって景色が変わっていた。
エルフィムは真っ先に降り立った場所は湖の手前の草原。そして、次に降り立ったのはミイラだった。ミイラもまた、草原に立った。そしてチェック、ナース、キャラと湖の岸辺に降り立った。
そして最後に降り立ったのはアニメだった。
アニメは激しい音共に湖に落ちた。
「なんだ!何で俺だけ水の中に・・・、ゲホッ」
エルフィムは遠くの方でむせ込むアニメをエルフの眼で確認すると、『風の精霊たちよ!あの者を舞い上がらせろ!』と唱えた。
すると、今にも湖の湖底に沈んでしまいそうなアニメの体がふわりと浮かび上がった。浮かび上がったアニメの体はふわふわと揺れながらチェックやナース、キャラのいる場所に降り立った。
まだ咳き込んでいるアニメの傍にキャラが真っ先に近寄った。
「大丈夫?」と膝をつきながら聞いた。
「あぁ・・・、ゴホッ!ゴホッ!」
チェックとナース、その後ろからミイラとエルフィムが駆け寄って来た。
「大丈夫か!アニメ!」とミイラが叫ぶ。
アニメは手を振りながら「大丈夫だ」とだけいった。
アニメの状態が改善したのを確認してから、エルフィムは「行きましょう」と声をあげた。真っ先に先頭を歩き出すエルフィムに、ミイラとチェック、アニメの両サイドにナースとキャラがついていく。
湖の波が小さく音を立てる。
その脇を静かに小石や砂利の擦れる音を聞きながら6人は歩く。
暫く歩いた6人は、左手に大きな山脈を見、右手奥には見覚えのある森が広がっている。その距離は遥か遠い。
「あの森から来たのか・・・・?俺たちは」とミイラがエルフィムに尋ねた。
「あぁ・・・、そうです。で、目的の場所はここです」と湖の方を指さした。
「ここ?って、湖の中?」とアニメが青い顔をして聞き返した。
「えぇ。さぁ、行きましょう」とエルフィムが先頭を切って歩き出す。
エルフィムの足元からピチャ、ピチャと水の音をさせながら湖の中へと進んで行く。エルフィムの進む先が湖の様相を変化させないでいたが、エルフィムの進む動きは坂道なのか、階段なのか降りて行く姿に見える。
ミイラが後に続く。
進んで行く先に見える物は、湖の中に隠れた階段を見つけた。
ミイラがゆっくりと階段を降りて行く。その後をチェック、アニメとキャラとナースが続く。エルフィムの姿が湖の碧い色に染まっていく。続いて行くミイラの姿も碧い色に染まっていく。
階下に降りて行ったエルフィムが誰かと話を始める声が聞こえる。
「・・・ました。丁度、集落に戻ったところオークに襲撃されていまして・・・。それでも、何とかここまで辿り着けました」
「手間をかけたな・・・。ふぅ・・・。エルフィム・・・。ふぅ・・・」
エルフィムが話す相手は言葉を発するたびにとても荒い呼吸を繰り返しているようだ。
「私も・・・、ふぅ・・・。チキュウジンを・・・、ふぅ・・・。見るのは・・・、ふぅ・・・。久しぶりだな・・・、ふぅ・・・」
「えっ?地球人?」とミイラが階段を降り終えたところで、聞こえて来たその言葉に反応して室内に飛び込んだ。
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