第1章 ビフレスト

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 一年後。  今年もハロウィンはやってきた。  昨年に続き、渋谷の街は騒々しい賑わいに、人と人とのトラブルも絶えず警察が警備に出るほどの物々しい雰囲気だった。  普段にも増して、渋谷のスクランブル交差点は物凄い数の人でごった返している。  警察も昨年同様にDJポリスを出動させて交通整理に躍起になっている。そんな姿を見たくて集める若者や外国人も昨年から増加した。 「あれが噂のDJポリス?」 「そうだそうだ!あれだよ」  破れたナース服に血糊で汚した物を着た彼女と手を繋ぎ、自分は包帯をグルグル巻きにしたミイラ男と言う恰好をした男女が警察車両の上に乗って、今回も叫ぶDJポリスを近くで見ようと人ごみを掻き分けて進んだ。  警察車両の前では制服警官が誘導灯を手に交通整理をする。  二人はその前に立ち、携帯のカメラでDJポリスの姿を撮影しようと手を挙げた。 「はい、立ち止まらないで」と目の前にいた警官に注意されると、「一枚だけいいじゃん」と少女はそのまま画面のフレームにDJポリスの姿を捉え、シャッターボタンを押した。 「・・・?」  彼女は静かに携帯を下ろす。そのDJポリスの後ろ、ビルの屋上に光り輝く七色の虹を見つけた。 「ねえ、あのビルの屋上に虹が・・・」と彼女が彼氏の腕を引っ張って、指差した方を見せた。 「虹?どこに・・・」と彼氏は彼女が指差す報告へ視線を向けると、確かに虹の光が上空へと光が伸びている。  それは真っ白な強い光の中に七色の色をつけた光が天高く立ち上っている光景である。 「あっ、本当だ・・・。でも、誰も騒いでいないじゃん」と彼氏は周りに視線を向けた。 「そういえば・・・」と彼女も周りに目を向けるも、DJポリスに視線を向けている人たちはいるけど、その後ろに光り輝く虹を見つける人はいなかった。 「ねえ、行ってみよう。私達だけにしか見えていないなんて、何だか不思議じゃん」と彼女がいうと、彼氏はおどおどとしながらも「うん」と頷いた。  二人は七色の虹が上空へと向かって立ち上るビルへと足早に向かう。そのビルは交差点のすぐ隣にあり、一階はレンタルショップで二階は有名なチェーン店のカフェが入っているガラス張りの建物である。  ビル中に入ると、仮装をした若者達でいっぱいではある。まだ店は営業中なのでお店を利用する客と仮装した客とが小さいトラブルを起こしているも、その人ごみの間を掻き分けて二人はエレベーターホールに向かって進んだ。  エレベーター前まで着くと、二人は一息吐いてから、彼女が案内板を確かめる。 「屋上には・・・」と彼女が小声で呟きながら案内板を探していると、その場に見知らぬ立派な髭を生やした外国人がやってきた。  彼はカメラを手にエレベーター前まで来ると、二人の前に立ち、上のボタンを有無言わさず押した。 「あっ!」と彼女が声を挙げると、チラッとその外国人は視線を向けたが、簡単に「Sorry」と答えると、視線をエレベーターの階数表示に向ける。  二人は小声で「何に焦っているのかな・・・」と囁く。  エレベーターが到着すると、外国人は真っ先に飛び乗る。二人も遅れまいと乗り込む。その間に外人の彼は最上階のボタンをすでに押して、閉まるのボタンをカチカチと何度も押していた。  その様子はかなり切迫しているようだ。  その時になって二人が気づいた。 「あの・・・、虹を見たんですか?」  外人に日本語がわかるとは思えないが、それでも彼女は試しに尋ねた。 「Yes・・・。You達もですか?」  彼は驚いた表情で二人を見つめる。 「あれは単なるレインボーじゃないです・・・。もしかしたら・・・」と、彼が言葉を濁した時、途中の階でハロウィンの仮装をした男女二人が乗り込んできた。彼らは口を固く閉めて、押されているボタンを確認すると二人で見つめあい、「うん」と頷いた。 「虹じゃ・・・、無いって、どういうことですか?」とナース服の彼女が小さい声で尋ねる。  その声は痕から乗ってきた男の方には聞こえたらしい。 「えっ!?皆さんにも見えたんですか?」とアニメキャラの仮装をしている彼が聞いてきた。 「えっ?なら、お二人も見たんですか?」とミイラ男の姿をしている彼氏が聞き返した。  彼氏が聞き返したとき、エレベーターは再公開のフロアに到着した。  5人はその階で降りると、屋上に上がる階段を探す。 「こっち!」と後から乗ってきたアニメキャラの仮装をしている彼女が叫んで教える。その彼女の声に反応した4人は会談の踊り場に進むと、上に向かって小走りで走る。  最上階へ上がる階段は蛍光灯が点っているだけで、明るさはそれ程明るいとはいえない。それでも、5人はあの虹が何なのか気になる事のほうが強く、多少暗い中でも屋上へと走る。 「扉だ・・・。開くかな」と言って、ミイラ男の彼氏がドアノブを回す。  それ程力も入れずにドアは開いた。  5人の目に飛び込んできたのは眩しいばかりの光である。さながら、ここはまるで昼間の炎天下の下にいるのではないかと勘違いするほどの眩しい明るさを放つ場所だった。  七色の虹の光が眩しいほどに光を放ってはいるが、身体に感じるのは冷たい風と寒さである。  光は強くても暖かさは感じられないのだ。  光の向こう、ビルの下からはハロウィンで賑わう人々の声がビルの谷間に木霊する。 「この虹の光は何・・・?」とナース服の彼女が近づく。ミイラ男の彼氏も一緒に近づく。  すると、カメラを手にしていた外人が「ダメ!近づかない」と叫ぶ。  彼は二人の前に立つと、「これはもしかしたら、ビフレストかも・・・」といった。 「ねえねえ外人さん。日本語しゃべれるの?」と彼女が尋ねると、外人は静かに首を立てに頷いてから、「これはボクの父の故郷、北欧に伝わる神話。神々の道とされているビフレストと呼ばれる虹の道かもね・・・」といった。 「ビフレスト?」とアニメキャラの彼が聞き返す。 「Yes・・・。北欧神話に出てくる神々がそれぞれの世界へ渡り歩くために使う光の道。これは・・・、もしかしたら」 「おもしれぇ!行ってみよっか」とアニメキャラの彼氏が同じアニメキャラに扮している彼女にいった。二人には恐れと言うものが無いらしい。 「ダメ!帰ってこれなくなるかも」 「そんなこといってもなぁ。あっ、おい待てよ」と突然、アニメキャラの彼氏が光の方向へ向かって叫んだ。  外人も光の方へ振り向くと、アニメキャラの彼女が静かに光の虹の中へ歩いていた。 「おい!待てよ」と彼氏がその彼女の手を取ろうと、自分の手を光の中へ伸ばした時、彼の姿は虹の光の中に消えた。 「あっ、ちょっと待ってよ」とアニメキャラの彼女がその後を追う。彼女も光の中へ消えてしまった。 「えっ?どうなっているんだ」とミイラ男の仮装をしている彼氏がその姿を見て、一度は自分の横にいるはずの彼女の確認しようと横を向いたが、そこに立っているのが違う女性だと知ると、真っ直ぐ光の中へと視線を向ける、迷いも無くその虹の光の中へと飛び込んだ。 「あっ!待ってよ。どうしたの?」とナース服の彼女が光の中へと歩き出す。 「ダメ!あれは幻覚・・・。幻ね、騙されない」と外人がその手をとって光の中へ入るのを止める。しかし、彼女は「離してよ」と思い切り手を振りほどくと虹の光の中へと飛び込んだ。 「みんな・・・」と外人が小声で呟く。  すると、光の中から何かの手が伸びてきた。それは迷いも無く外人の腕を取ると、力強く光の中へと引っ張られた。
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