お百度詣で得た未来

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「あれだけ就活に労力を注いだっていうのに」 「もはや仕事にも飽きている」  生まれも育ちも違うけれど、上の句詠んだら的確な下の句が返ってくるっていうくらい、同期のニシジマはわたしとそっくりな女だった。  とにかくちゃんとした仕事にありつかないと人生の転落が始まるとばかりに身を粉にして就活していたのに、「ちゃんとした」なんて釈然としない思いの丈でつかんだ仕事は、人生の繋ぎでしかなくなっていた。  どこかの政治家がいいだした『輝いてる女性』とはすべての人を指すわけではない。輝いている女性になるためには働きながら恋愛をし、結婚をし、出産をし、育児をして完成されるというすり込みに、わたしたちはまんまと感化されていたのである。結婚しないという幸せについては考えてみたことがないし、誰もそれを応援していない。  次なる人生の分岐点は結婚なのだ。 「いろいろ試してわかったのは、合コンで知り合った男より社内婚がベストだってことね」  昼休み、キッチンカーの500円ランチを運良く手にし、広場に設けられたパラソルの下で舌鼓を打ちながら、ニシジマは猛烈に話しはじめた。 「ミキちゃんのことは手近な男ですませちゃってなんて思ってたけど、同僚ってのはある程度人となりがわかるし、身元もはっきりとしてて、会社にも毎日来てることも知ってて、給料もどの程度かわかるでしょ。もっとあればいいと思うけど、少なくとも職業偽ってたり、詐欺ってことはない。自分だって焦る年齢ではないけど、いいなって人に出会うとどういうわけか焦るのよ。どんな人なのかそんなことより自分に気があるなら引き留めなきゃって、焦ってくるの。こんなチャンス二度とないって」 「そんなこといって、経験あるの?」 「あるからいってるんでしょ。貢いだのがボーナス程度で助かった」 「いや、助かってないし」  意外な失敗談を聞かされて、ニシジマもわたしと同様、男を見る目がないことが知れた。わたしには大学生時代からずるずると付き合ってきた彼氏がいた。だが、わたしよりちょっぴりマシな女を見つけると、あっさりとわたしに別れを言い渡して結婚してしまったのだった。捨てられても今はまだ行き遅れにならなかったのが幸いだと許してしまうわたしにニシジマは「慰謝料を取れるくらいの口約束はしておくべきだったわね」といっていたのだが、逆にむしり取られていたとは。ダイエットじゃなくてもランチ代をケチりたくなるわけだ。 「わたしもね、合コンより神頼みだなって思ってたの」  そういうとニシジマは「いやいや」と、口の中の米を飲み込んで首を振った。 「合コンよりっていう部分以外、まったく共感できないんだけど」  ツレないニシジマの気持ちはよくわかる。いい加減なようでいて、わりと現実的に人生の節目を通り抜けてきたわたしたちが、紆余曲折辿り着いたよりどころが『神頼み』だなんて。 「神頼みってどういうことよ?」 「最近ね、家の近くで毎日顔を合わせる女子高生がいるの」 「ちょっと待って、男子高校生でもなく、女子高生?」 「話しは最後まで聞きなさいよ」  違う方向へ勘違いしはじめたニシジマを制して話を続けた。  家からバス停までの道のりには神社がある。小さいころお祭りのときぐらいしか行ったことがない神社で、祀られているのがどんな神なのかも知らない。小さな神社だから古事記に出てくるような有名な神様を祀っているというのではなく、この土地の氏神や鎮守といったところだろう。  その女子高生は学校に行く前に立ち寄っているようで、わたしも知っている学校の制服に大きなトートバッグを肩にかけ、神社の階段を下りてくるところによく出くわす。きっと近くに住んでいて、一番近くにある神社だからついでに参拝しているのだろうと思った。 「足繁く通ってるから大学受験祈願ってところかな。案外、恋愛成就ってことも考えられるけど」 「お百度詣かしらね」 「なにそれ」 「毎日毎日、百日かけて参拝して願い事を成就させること。百日もかけてられないときとか、緊急を要するときは1日で百回お参りするの。鳥居から拝殿の前までを行き来してね」 「神頼みに否定的なのに、そんなことは知ってるのね」 「普通の女子並みに、パワースポットとか興味ないわけじゃないよ」  へぇ、と相づちを打つ。まぁ確かに、占いとかおまじないとか、女子が一度は通る道だ。スマホを片時も離さず常に情報をチェックしているニシジマなら、やってみようとは思わなくても知っていそうではあった。今日も、お目当てのキッチンカーがここへやってくる情報も得ていたし。  最後までとっておいたフレッシュトマトを口に放り込んでニシジマはいった。 「それで。ニッタも参拝を?」 「うん。2~3分早く出てくればいいだけのことだし、なんだか、ピピッてきたしね」 「神社に運命感じるとかよくわかんないけど、ちなみにお賽銭はいくら?」 「1回十円」 「せこくない?」 「そんなもんでしょ。だって、100回で千円だよ。千円の賽銭なんてしたことある?」 「100回も参拝したの?」 「数えてないけどさ。でも、実は……」  わたしが言うことを察知したのか、ニシジマは背もたれにのけぞって露骨に不機嫌な顔をした。 「実はね、同じ課のヒイラギさんと付き合うことになったんだ」 「やっぱり。やっぱり職場か。わたしより早く当たりを付けていたとは」 「人聞き悪いな。こういうのはね、ピピピだよ。ニシジマもお百度詣してみなよ」 「それなら開運アプリでも探すわ」  本当にそのつもりなのか、テーブルに伏せておいたスマホを取って慣れたように片手で操作する。焦ってないと余裕をかましながら、これはつけ込まれるフラグが立ってるんじゃないかと心配になってくる。 「ねぇ、そのうち出会い系を開運アプリとかいったりしないよね?」 「まさか。出会いは社内で求めることにしたんだから。今日から社内の情報集めに精力注ぐことにするわ。ミキちゃんもそうだけど、ニッタまで情報をつかんでいなかったとは。不覚だわ」  人の分までお参りするつもりはないけど、わたしは神社に参拝するのが日課となっていったのだった。
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