第3話 昼休み

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第3話 昼休み

「……えと、コレは……何?」 「見ての通り捜索兼整頓中」 「いや、捜索って……捜索か。ここまで汚ければ……で、見つかった?」 「いいや? 全然」  朝に会った『こいつ』は、幼馴染で同じ部活をしている仲間ではあるものの、クラスも違えばそもそも学年も違う。 「…………」  学年が違うものの、俺自身が「上の学年だから」という理由で『敬語』で話されるのが嫌だから、基本的にはタメ口で話してもらっている。 「もう昼休みだけど、これだけ中身ひっくり返しても見つからないのなら、ここにはないって事じゃない?」 「あー、そうなると……」 「部活で使っているロッカーは? たまにカバンの中身がいっぱいだから……とかで色々入れていたし?」 「そうか、なるほど……」  現に進路調査の紙を失くした時も、結局その『ロッカー』の中から見つかった。 「でも、今の時間に誰かいるか?」 「昼休みならいつも部長と副部長が昼食を食べながら部活メニューの打ち合わせしているはずだけど」 「あー、あいつらな」 「うん」  正直、二人とも俺の同級生ではあるがどうにも苦手だ。  いや、決して『嫌い』という訳ではない。ただ『苦手』というだけだ。そこは勘違いして欲しくない。 「じゃあ、食べ終わったら行ってくる」 「うん、俺は職員室に用事があるから行けないけど」  彼は少々申し訳なさそうに言った。 「分かった」 「ごめん」  でも、俺としては「俺の事情でそこまで付いて来てもらうのは申し訳ない」と思っていたので、彼には彼の用事があるのであればそちらを優先してもらった方がありがたかった。 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆ 「ムッ? どうかしたかね?」 「あっ、いや……ちょっと探し物を……ですね」  俺の目の前には、かなり大柄な『男』が立っている。しかし、その『男』は俺と同級生。  つまり、まだ未成年の『少年』だ。それなのに、そのあまりのも大きな図体のおかげで初対面の人にはかなりの威圧感を与えてしまう。 「なんと、それはいけない。手伝おう」 「いっ、いや! それは申し訳ないですって」 「そうかね?」 「はいっ! そうなんです!」  じゃあ、俺が今。彼に対して『敬語』になっているのは、その『威圧感』のせいか……と言われると、ちょっと違う。  実は、彼は正真正銘の『お坊ちゃま』なのだ。  しかし、決してその事を鼻にかけたり、権力に胡坐(あぐら)をかいたりはしない。むしろ、そういう事に嫌悪感すらあるらしい。  なんでそんな『お坊ちゃま』がこんな『普通』と呼ぶにふさわしい学校に通っているのかというと……単純に「家の方針」と「社会勉強」を兼ねて……という事らしい。  まぁ、確かにこういった環境の方が……と言われれば何となく納得も出来るが、ただ彼は……とにかく『真面目』で『融通』と『冗談』というモノが全く効かない。  むしろ、俺たちの『冗談』も真に受けてしまうので、正直『冗談』を言った人たちの罪悪感が半端ない。 「はぁ……やっぱりねぇな」  しかし、いくら探しても真っ赤な小テストくらいしか出てこない。 「ふむ、ところで何を探しているのかね」 「あー、いや。ちょっと『家庭科のテスト』をですね」  これだけ探しても出てこないと、正直参る。 「なるほど。やはり私も手伝おう」 「いっ、いやいや! 大丈夫ですって!」 「一人よりも二人で探した方が早いだろう」 「そっ、それは……そうですけど……というか、あいつは?」 「あいつ……ああ、彼は委員会の呼び出しで少し遅れるそうだよ」 「あぁ……なるほど」  いつもであれば、そんな超が付くほどの『大真面目』を副部長の『彼』がさりげなくサポート……と言う名の『ツッコミ』をしてくれるのだが……どうやら今は不在の様だ。 「……」 「……」  結局、彼の圧力に負け、手伝ってもらったものの……正直いたたまれない。 「ん? 家庭科……??」 「あっ、見つかりました?」  そう尋ねると、彼は「いや、なんでもない」と言って再び探してくれた……。一瞬、何かを思い出したように見えたけど……なんだったのだろうか。  結局は副部長が戻ってきたところで、次の授業が『体育』だった事を思い出し、肝心のテストは見つからず、慌てて教室に戻ったのだが……。 「本当、どこに行ったんだろうな。俺のテスト……」  いくらなんでも百点が物珍しくて……という事はないはずだ。  でも「ここまで探しても見つからないとなると……」俺は正直この時、そろそろ人を疑いそうになっていた。
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