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ある男
男はプロの塗装人だった。
建物の外壁や道路や柵に塗装をするその仕事は、大勢の職人たちの創造物を、最終的に飾り付けたり、強さをプラスしたりするアンカーのような仕事だ。
男は自分の仕事に誇りを持っていたし、その生活が一生続くことに何の疑いも無かった。
宇宙を救う任務を背負うまでは………。
ある日突然、一点の関わりも無かったはずの宇宙警備隊に呼び出され、訳も分からないまま特別隊員に任命された。
男にあてがわれたのは三百人の部下と三百機の小型船、本機が一機。
「詳細は追々話す」
と、宇宙警備隊の隊長に言われ、急き立てられるようにほぼ強引に宇宙に放たれた。
宇宙警備隊はとにかく急いでいたのだ。
断る権利も無い男は、こうして生まれて初めて宇宙に出た。
男の乗る小型船が先頭を切り、一団が澄んだ闇に浮かぶ光の間を滑って行く。
年季の入った作業ズボンのポケットに忍ばせた、妻と三人の子供の写真を手に取った。
宇宙警備隊の隊長に言われた言葉を思い出した。
「この任務を成功させなければ、宇宙の未来に平和は無い。それは君たちの肩にかかっているのだ」
男は腹をくくった。
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