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今日も航には会えそうにない。
勤務終了時刻の十分前になり、律香は「はぁ……」とため息を吐いてしまった。
事務室で仕事をしていたので、その声は意外にも大きく響き、ドキッとして手で口を押さえるが遅かったようだ。
「皆月さん、大丈夫?気分でも悪い?」
斜め上から声を掛けられてしまう。
顔を上げると、上司である事務長の今村遼太郎と目が合い、いけないと身を縮めた。
今村は、律香の面接をした三十三歳の上司。
とても美しい容姿をした男である。
切れ長の目にスッと伸びた高い鼻。
整った眉と意思の強そうなキュッと締まった唇。
シャープなフェイスラインに天然なのかあてているのか不明であるが、緩やかにウェーブのかかった髪はよく似合っている。
その上、一八十ほどの長身でスマート。
言わずもがな女性の多いここではモテていて、ファンは多いと聞く。
律香も今村を初めて見た時には、あまりの美形さに驚いたほどである。
「事務長……」
まだ仕事中であるというのに、集中力に欠けた自分を見られてしまったことを気まずく思い、目を伏せた。
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