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今村は「疲れたんじゃない?」と、穏やかな声をかけてくる。
恐る恐る彼を見上げると、優しい目で見つめられていたためホッとした。
「いえ、大丈夫です。申し訳ございません……」
「まだ入って間もないんだから無理しなくていいよ。今日は忙しかったから大変だったよね」
「……そんな、お心遣いありがとうございます」
仕事外のことでぼんやりとしていたバツの悪さから、声が弱々しくなる。
律香がここに勤めてから三ヶ月は経っていて、間もないというには無理があり、また今は月半ばで、月初めの保険の請求期間で特別忙しい時期というわけでもない。
外来患者は多かったが、それは普段通りのこと。
今村の気遣いが心苦しい。
今村という人間は、航と違い愛想を振りまくタイプではないものの、円滑な人間関係を築くために職員らに気配りを欠かさない。
事務員には困りごとがないか定期的なヒアリングを行ったり、有給休暇を取りやすいように働きかけたり、トラブル時は丁寧に対応してくれる。
また、外出すれば事務員への菓子などをマメに購入してくれることから、周囲から好かれ頼られる存在だ。
律香もその内の一人で、今村には悪い印象はなかった。
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