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今村は「あまり無理しないようにね」と律香の肩にポンと手を置いた。
「はい、お気遣いありがとうございます」
気配りに笑顔を見せた時、出入り口扉の位置に航が立っているのが視界に入り目を見開く。
「皆月さん!」
航に名前を呼ばれたことで、心臓が波打つ。
一瞬で頭の中に彼と過ごした親密な時間が思い出され、全身が熱くなる気がした。
まさか彼は二人の関係をオープンにするつもりなのだろうか。
現段階では一応“彼氏”という立場の彼。
それを気にするのは、律香だけではなかったようだ。
航が律香に会いに来るなんてはじめてのこと。
周囲の視線が一気に律香に集中する。
いたたまれない気持ちで「はい……」と答え、視線から逃げるように俯きつつ航へと駆けた。
「あの、どうかされました?」
なるべく冷静を装い尋ねる。
近くにいる者たちが耳を大きくして窺っているのを感じる。
「ごめんね、仕事中に」
律香はいえと、首を左右に振った。
航は柔らかい笑みを浮かべるが、久しぶりに会う航はあの夜と変わらず素敵で、なんだか直視できない。
「これ落とし物じゃないかと思って」
呼びかけられた始まりの日と重なる行為に、胸の鼓動が早くなる。
航が差し出したのは見覚えのないパスケースだった。
すぐに“違う”と言いそうになるも、航は小声で「受け取って」と、言うのだ。
不思議に思いつつも受け取ると、パスケースにメモ紙が挟まっていた。
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