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律香は二人の様子を信じられない気持ちでまじまじと見つめる。
女性がようやく律香を一瞥し「わー君、この人誰?知り合い?」と口にした。
(彼女だって言ってくれるよね……?)
唾をゴクリと飲み込み、航を祈るような気持ちで見つめると、彼の垂れ目がちの奥二重瞼と視線と視線が重なった。
胸は緊張で震えている。
「職場の事務の子だよ」
「……え」
(本気で言っているの……?)
視線でそう訴えるけれど、航には簡単に逸らされてしまう。
「本当?だってさっき名前で呼んでた。私、聞いたよ」
女性は頬をぷくっと膨らませ、面白くないと言わんばかりの表情を作った。
今どきのメイクをした可愛らしい女性の顔が愛らしくなる。
「職場の何人かは俺のことを名前で呼ぶんだよ。彼女もそうなんだ」
それは確かに事実だった。
彼のことを“航先生”と呼ぶ看護師や医師は複数人いる。
しかし、律香のように君付けで呼ぶ者なんて一人もいない。
一体、律香はいつ航にとってただの職場の人間になったのだろう――。
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