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航は首を小さく竦め眉を下げ「ごめんね。突然誘って」と謝るので、律香は首を横に振る。
「そんな……先生にお誘いを受けて光栄に思います」
からかわれているかもしれないと思っていたくせに、必死で答える自分が滑稽で下唇を小さく噛み締め俯いた。
航はハハッと小さく笑う。
「光栄だなんて女性を食事に誘って初めて言われたな。皆月さんらしくて奥ゆかしい感じがしていいね」
顔を上げると穏やかな彼の視線と視線が重なった。
単純にも律香の胸の鼓動はトクンと鳴る。
「俺はずっと皆月さんと二人きりになりたいと思ってたんだ」
律香は反射的に眉をひそめ、疑わしそうな目をしてしまう。
航はクスッと笑うと、両手の指を組み顎を乗せてテーブルに肘をつき、律香をまじまじと見つめた。
なんだか観察されているような気がして落ち着かない。
「信じられないって顔だね?」
律香は素直に小さく頷く。
「やっぱり。そんなに信じられない?」
「はい。私は先生の周りにいらっしゃる綺麗な方々と違い地味なので、ご冗談であるのは理解しています」
「皆月さんが地味?清楚の間違いでしょ」
どうやら航は言葉のチョイスが上手いようだ。
地味な律香を清楚と例えるなんて、さすがモテる男は違う。
癖知らずの腰まであるストレートの黒髪とトラブル知らずの色白の肌については褒められるものの、流行に疎く大人しい見た目の律香は地味な自覚があった。
「先生はお上手ですね」
「そんなことないよ。皆月さんのことは皆が綺麗だって言ってるよ」
皆とは誰だと言い返したくなるが、航に優しく微笑まれてしまい、律香の心は不覚にも熱くなる。
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