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始まりと終わりと
春の風がそよそよと吹く穏やかな休日の午後。
学生時代に美術部に所属していた律香は二十五歳になった今でも変わらず絵が好きで、美術館に訪れていた。
美術館巡りは彼女の趣味だ。
ゆっくりと歩きながら一枚一枚の絵画に時間をかけ堪能するのが、律香のスタイルである。
開館時から来ていてもう二時間が経つ。
そろそろ空腹を感じて、休憩をしようと館内に併設されたカフェへ入ろうとした時、ショッキングピンクのミニワンピースを履いた女性とぶつかってしまった。
彼女は律香とぶつかった衝撃で、肩駆けのブランドのバッグを下に落としてしまう。
「すみません!」
律香はすぐさま謝ると、バッグを拾おうと腰を屈めた。
その時、後ろから「お待たせ」と、いう声がしてハッとした。
その声は聞き覚えのあるもので、律香は勢いよく後ろを振り返る。
「……え」
そこには、予想した通り彼の姿があった。
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