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二章
「じゃあ、行って来ますね。澄生、父さまといい子にしててね」
「うん」
来たる日曜日、澄生は妻に頭を撫でられ大きく頷いた。
「お土産何がいいですか?」
妻は靴を履きながら尋ねる。
「気にしなくていいから無事に帰って来い」
「澄生は?」
「おかあさんがぶじにかえってきたらいいよ」
四歳の癖に「無事」という言葉をわかって使えるのだろうか。妻は「まぁ澄生は」と笑って玄関の扉を閉める。二人きりになったところで聞いてみる。
「……お前『無事』ってどういう意味か知ってるのか」
「いみ?」
澄生はきょとんとした顔で首を傾げてきた。これは大方何もわからずに言ったのだろう。
「俺はお母さんに『元気で帰って来い』と言ったんだ」
「そうなんだ」
知ったかぶりをしないところは潔い。
「なんでわからんのにそう言ったんだ」
「とうさまがおかあさんにいうことだから、いいことだとおもったから」
……子供の理屈はよくわからない。
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