第二章、チワワが喋りだしたよ

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「ところで、この子の名前考えてる? 無いなら私が……」 ドーベルマンにポン助と名前を付けるイカれたネーミングセンスを持つ久美子。久美子に任せていたらどんな名前を付けられるか分からない、こいつを守るために将人がする行動は一つだった。 「俺が拾ったんだし、俺が付けるよ」 「あら残念ね、タメ助ってつけようと思ったんだけど、もしくはレオパルドン」 予想通りだった、後者の方がそれらしいと言えばそれらしいが、何分チワワには似つかわしくない。 それから自室に戻り、それっぽい名前を考えるために漫画やら辞書やらをペラペラと開いてみるが、なかなかいいアイデアが思いつかない。RPGの名前つけでも数時間悩むタイプの将人にとってはは余計にそうであった。中二病っぽく「ジャスティン」とか「ジャン」とか「ジャスティオ」とか「ラインハルト」とか「コーネリアス」とかが思いつくがどれもピンと来ない。 「なぁ、お前名前何がいい?」 「……」 当たり前だが無反応である。ここで自分の付けて欲しい名前の希望を言ってくれれば気が楽なのだがそんな都合の良いことは無い。やはり知恵を搾り出す必要があった。 風呂場でも既に思ったがこの犬はやけに気品がある、そう、王様みたいな…… と、言うことで適当に王様の名前をインターネットで検索して、一番初めに目についた名前にしよう! と言ったことを思いついた将人は検索してみた。ちなみに犬が雄であることは風呂場で既に確認済みである。赤黒い玉が案外グロテスクで将人は驚いていた。 王様の名前 検索結果 680000件 0.2秒 一件目 王様の名前 円卓の騎士に関する論文 アーサー王について。 決まった! これも中二病臭い名前だが、この世から中二病と言う要素を引いたら各種サブカルチャー的メディアは何も出来なくなる。アーサーにすることにした。 「よし! 今日からお前はアーサーだ!」 「…… ワンッ!」 少し溜めたのが気になるがまぁ納得してくれただろう。カッコイイ名前かそうで無いかと聞かれたら間違いなくカッコイイ部類の名前であるし、こいつも満足だろう。よく見ると微妙に尻尾を振っているのでご機嫌なのだろう。 しかし、この犬はよく見ると可愛いしカッコいい。将人のベッドの上でゴロゴロしている姿をみると余計に可愛く見える。将人はより深くその顔を眺めようとアーサーの頬に顔を近づけた瞬間、アーサーの右拳(?)右前足が将人の顔面を殴りつけた。その一撃で将人は床に倒れ込んだ。その刹那、久美子がノックもなしに部屋に入ってきた。親と言うのはこういうものである。 「あんたなにしてんの」 「犬に殴られた」 「こんな可愛い子が人を殴るわけ無いでしょ。ねー?」 久美子は「ねー」と言いながら首を傾けた。するとアーサーも目を閉じてにっこりとしながら媚びるように首を傾けた。 「一体何だよ」 「一応犬って遺失物の扱いだから警察に連絡しないと」 あんな雨の中公園のベンチで震えていたと言うだけで捨てられたと将人は思い込んでいたが実は「脱走した可能性」もあることを今更ながらに考えた。あれだけ小さく生意気でヤンチャな犬なんだから換気のために少し開けていた窓から脱走する可能性も十分にあり得る。 久美子はスマートフォンで写真を撮った。そして警察の遺失物係に送信する。 「後は何かあれば警察から連絡来るでしょ」 「お母さん、手慣れてるねぇ」 「子供の頃に何匹か拾って最後まで世話してるから慣れてるだけのことよ。そうそう、名前は保留しておきなさい。飼い主発見(みつ)かった時に別れが辛くなるわよ」 「ゴメン。もう付けた」 「気が早いのねえ」 久美子は呆れたような顔をしながら部屋から出て行った。心なしかその顔は笑顔に見えた。
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