最終章、かぞく

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 今日の分の夏休みの宿題を終えた将人はベッドの中に入った。アーサーは枕から僅かにその身を動かして枕の端に寄った。空いた枕のスペースに将人は頭を預けた。今日、独楽山で誇張抜きで命を懸け、突然の別れまで回避したことで二人の絆はより深まっていた。こんなこともあってか聞きたいことができた将人はアーサーに尋ねた。 「ゆうちゃんにとって俺って何?」 「言うの恥ずかしい」 ぷい。アーサーはそっぽを向いた。将人の中では答えは分かっていたが直接言ってもらわない分からないし直接聞きたかったのでアーサーをぐいと抱き寄せて目線を合わせた。アーサーの黒真珠のような目に将人の顔が鏡のように映される。 「唯一無二の親友だよ」 将人の熱かった胸がますます熱くなった。更に心臓の音が耳元で聞こえるような感覚に襲われる。無意識にアーサーの肉球を優しく掴んでいた。 「何だよ。くすぐったいな」 「変な意味じゃないけど。ずっと好きだったよ」 それを聞いた瞬間にアーサーは「ヘッ」と失笑した。 「唯一無二の親友に対して思う気持ちに好き以外何があるんだ。その気持ちは同じだろ」 「友達が家に泊まりに来てさぁ一緒にいるだけで楽しいって思うじゃん?」 「ああ、それがどうかしたか?」 「君が死んじゃってる状態で不謹慎なこと言うけど許してくれるか?」 「ことによるかな? 変なこと言ったら肉球でビンタしてやるからな」 「拾ったチワワが君だって分かって、毎日暮らすようになって毎日が楽しくて仕方ないんだよ。君が毎日泊まってるみたいなもんだろ? 口は悪いけど君は君じゃないか」 「常に一緒にいて嫌なところも見えてきたんだろ」 「それ含めても好きだし一緒にいて楽しいって気持ちは変わらない」 「しかし、あんなことよくアッサリ信じたな」 「あの世のこととかか? 犬が喋ってる時点で信じざるを得ないじゃないか」 「理解が早くて助かる」 似たもの親子が。アーサーは軽く心の中で笑った。 「お願い、聞いてくれないか?」 「何だよ」 「もう、俺の前からいなくならないでくれ。君が死んだ時どれだけ悲しかったか」 アーサーは首をゆっくりと振り、俯いた。 「それは約束出来ない。多分だけど俺後7年か8年ぐらいしか生きられんぜ? 俺は犬だからな。人様より何年も早く歳を取る。多分だけどまあちゃんが大学卒業するかそのぐらいで寿命を迎える」 「そんな…… やっとまた友達になれたのにまた別れるなんて嫌だよ」 「犬の体だ。この点は諦めてくれ」 将人はアーサーをそのまま抱き寄せた。 「君、あったかいな」 「そりゃあチワワは元々はメキシコ人の夜寝る時の防寒具みたいなもんだったからな」 「こんな理屈的なことはどうでもいい」 「まぁ、非常食でもあったらしいけどな」と、アーサーが言った瞬間に将人の顔を見ると、目は閉じられすーっと眠りに就いているのだった。 アーサーもゆっくりと眠りに就くのであった…… その顔はとてもとても喜びに満ちているように見えた。
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