エピローグ、ビニールプール

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エピローグ、ビニールプール

 夏休み最後の日も残暑とは思えないぐらいに猛暑日であった。クーラーがガンガンかかったリビングで将人が勉強している時、アーサーが鼻を擦り寄せてきた。 「プール入りたい」 「いきなり何言ってるんだよ」 「昔さぁ、この家の庭でビニールプール置いて二人で遊んだじゃねぇか」 「子供じゃねぇんだからさぁ。風呂じゃ駄目?」 「駄目」 このわがままさんめ。将人は渋々ながら庭の物置の中を漁った。随分と埃の被った段ボールの中にビニールプールはあった。将人は埃を払いながらビニールプールを取り出した。窓の向こうの涼しい部屋からそれを見ていたアーサーは尻尾が千切れんばかりに思い切り振りに振った。この嬉しがる姿をみて同じく喜ばしい気分になった将人はビニールプールを庭に置いて広げた。それからビニールプールの箱の隅に申し訳程度に置かれていたフットエアーポンプを繋いでシコシコと踏みしだきビニールプールを膨らませる。 瞬く間にビニールプールは膨らみきった。アーサーはそれを見て窓にどんどんと肉球を叩きつけ尻尾をぶんぶんと振り喜びを表現する。ビニールプールの何が嬉しいのだろうか。将人は疑問に思いながらホースでビニールプールに注水を始めた。アーサーの胸の高さぐらいになったところで水を止めた。それと同時に将人は庭の窓を開けた。外の熱気がむわっとした感じで一気にクーラーで冷えに冷え切った部屋に入ってくる。アーサーはそれに構わずに庭にひょいと飛び降りて芝生を踏みしだき、これまたひょいとビニールプールの縁を飛び越えてビニールプールの中に着水した。ざぱんといった音と共に水しぶきが辺りに飛び散る。 「冷たくて気持ちええんじゃあ~ そうだ。芝生も随分と熱くなってるから少し打ち水してくんないか」 「はいはい」 将人は庭中にホースで水を撒いた。むわっとした熱気の籠もった庭があっと言う間に僅かながらにひんやりとした空間に早変わりした。 芝生や土は水を吸い込み蒸発を適度に行うために打ち水の場所として適切である。気化熱を奪うことで温度を下げる打ち水の場所としては一番適切といえる。 アーサーはビニールプール内で何やら伏せの体勢をとったりごろごろと身を捩って寝転んだりしている。楽しんでくれて何よりだと将人は嬉しい気分になるのだった。しばらくしてアーサーがビニールプールの縁に顎と手を乗せながら言った。
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