第一章、チワワを拾ったよ

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あの犬は誰かが拾うだろう…… さっさと家に帰って暖かいココアでもお母さんに作って貰ってのんびりと…… 風呂に入って……  そう考えていた将人は踵を返した。走った先はベンチの目の前であった。雨で中身が濡れないように学校指定のデイパックのチャックを開ける。中身は本日行われたテストの教科分しか教科書は入っていない。普段も鞄の薄さは知能の薄さそのままに教科書は机の中に置いていっている。自宅での勉強なんかテスト前にしかしない。つまり、デイパックの中には小型犬ぐらいなら余裕で入るスペースがあると言うことであった。 「ちょっと我慢しろよ」 将人はデイパックの中に犬を詰め込んだ。その際に全身を身震いさせ激しく暴れるが観念したのかすぐに大人しくなった。 「大丈夫か?」 「くぅ~ん……」 悲しそうな声を上げる犬。将人はそれに構わずに自宅に向かって走り出した。 将人は自宅に着き玄関先の土間で犬をデイパックから出した。犬は濡れた体を思い切りぶるぶるぶると震わせて水を払った。それからぐったりとして伏せの体勢になるようにその場に倒れ込んだ。そして上目遣いでこちらをじっと眺める。 「腹でも減ってるのか?」 「きゅううううん」 犬は力なく顎を引いた。それはまるで頷いているように見えた。 「とりあえず暖かい牛乳でいいか」 将人は全身濡れて泥まみれの状態で台所に向かった。そこでは久美子が鼻歌交じりでネギを千切りにしていた。将人の気配を感じて姿を見ると水に濡れた泥まみれの息子の姿を見て心から驚く。 「あんた何よこの格好、傘持っていかなかったの?」 「そんなことより……  玄関に……  犬が……」 「はぁ? 犬?」 久美子は玄関に向かう。土間でぐったりとした犬の姿を見て驚いた久美子は直ぐ様に平皿にポットのお湯を入れてそれから水道水を混ぜて湯の温度を下げる。 「お母さん、せめてホットミルクぐらい……」 犬ごときに人間様の牛乳はやらねぇよ。母がそんなことを考えたと思い将人は失望した。だが、そうではなかった。 「何言ってんのよ。犬に人様の牛乳なんてあげたら下痢しちゃうじゃないのよ」と、言いながら久美子はハンドタオルを乱暴に将人に投げつけた。 牛乳の中にはラクトースと言う糖分が含まれている。そのラクトースが上手く分解出来ないと下痢を引き起こすとされている。そのラクトースを上手く分解するラクターゼと言う酵素があるのだが、その酵素は子犬の内にしか存在しない。少量であれば問題は無いが下痢を引き起こさない為に犬に人間用の牛乳を飲ませるのは望ましくない。 ちなみに犬用の牛乳というものがあるが、それはもうラクトースが分解されたものであるために犬に与えても問題が無いように作られている。 犬の前に平皿に入れられたお湯を差し出すとスッと立ち上がり凄い勢いでペロペロと舐めて飲みだした。 「げぷっ」 居酒屋のおっさんよろしくお湯を飲み終えると犬はその場にちょこんと座った。そしてぶるぶると震え上がる。 「とりあえずあんたお風呂入れて上げなさいよ」 「えーっ、母さん入れて上げなよ」 「あんたも濡れているでしょ。さっさと体温めないとこの子風邪引くよ。別にあんたは寝れば治るからいいけど。お風呂は沸いてるから」 浅野家の風呂は24時間風呂と言う親切設計である。父親の仕事が自動車会社の営業部長であるために帰りの時間は何かと安定しない。いつ帰ってきても風呂に入れるように24時間風呂にしているのであった。
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