第一章、チワワを拾ったよ

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将人が脱衣所でそさくさと服を脱いでいると、その姿を犬がジーっと見ていることに気がついた。こいつは俺の裸を観察しているのだろうか。そんな犬の姿を見て将人は訝しげな顔をした。 「見るなよ、恥ずかしいだろ」 「ヘッ!」と言いながら犬は首を背けた。俺の裸を見て失笑しただと?そんな訳が無い、こいつは犬だぞ。何を素っ裸の自分を恥ずかしがる必要がある。と、思いながら湯船に飛び込んだ。犬をシャワーで軽く洗った後、お湯を入れた洗面器にいれた、本当に気持よさそうにしている。人間以外の動物に笑いと言う感情は無いと聞くがこいつは心なしか笑っているように見えた。 将人は湯に浸かりながら誰かと風呂に入るのは久しいことを思い出していた。小学校の5年生ぐらいまでは遊章とよく一緒に入っていたなぁと回顧の思いに浸っていた。 将人は何の気も無しに風呂におもちゃのアヒルちゃんを浮かべることにした。窓際に鎮座するアヒルちゃんを取る為に湯船から立った瞬間また犬の視線を感じた、将人の裸をじっと眺めている犬の姿がそこにあった。 「ヘッ!」 「こいつが同級生だったら馬鹿にするんだろうな」 現に将人は自分のあそこに自信がなかった、多分、同世代の平均よりは小さいだろう。男のコンプレックスと言うのは背の高さと顔の良し悪しとあそこの大きさと聞く。将人はその三つ全てに自信が無かった。 泥を洗い流して気がついたのだが、この犬は真っ白であることに気がついた。それとは関係ないが、妙に気品がある。洗面器の中でゆったりとしている姿一つでも顎を縁に付けて目を閉じて気持ちそうにしているのを見て将人は癒やされるのであった。 将人と、犬と、アヒルちゃん。この3者が風呂でのんびりとしている。その光景は微笑ましいものであった。しかし話をする相手でもない。将人は犬にちょっかいをかけてやろうと思い水鉄砲の構えを取った。その刹那、犬は尻尾を将人の方に向けて鞭のように尻尾を振る。尻尾の毛に吸われたお湯が将人の顔面に直撃する。 ぶっかけられたのはこちらだった。しかも、尻尾を思いっきり振るものだから結構まとまった水滴が将人の顔面に降りかかった。 「テメー! 何しやがる!」 ツーン、とした表情で犬はあさっての方向を向いていた。命の恩人に対してなんたることをしてくれるんだコイツは。犬は順位制と言って飼われている家の人間をランク付けして従うべき人間の選定を行うらしいが…… 将人はいきなり最下層にランク付けでもされたのだろうか。まだ飼われるとは決まっていないのにこの態度は何だろうか。 とにかく、コイツは生意気だ。 将人の中で犬に対する認識が一つ生まれた。
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