第二章、チワワが喋りだしたよ

1/8
36人が本棚に入れています
本棚に追加
/102ページ

第二章、チワワが喋りだしたよ

風呂から上がって早々にこの犬をどうするかの家族会議が開かれた。と、言っても家長である父はまだ帰宅前であるために久美子と向かい合わせに将人と犬が座る形となった。父がどう判断するかは知らないが、実質久美子が権限を握っている以上はここが最終決議場となるのは明らかであった。 「さっきも聞いたけど、どういうことなのか説明しなさい」 「公園で拾った」 「こんな高級な犬捨てる馬鹿がいるわけないでしょ!」 そうは言うが…… 今は何十万円もするワニや蛇を川に捨てる大馬鹿がいる世の中である。 「明日、元の場所に戻してきなさい」 やはりそう来たか…… 久美子は犬が嫌いと言うわけでは無いがその後の別れを嫌がっている節があった。 「お母さんね、お父さんと結婚する前に実家で犬飼っていたのよ」 久美子の娘時代の写真はどれを見ても犬と一緒である。本当に犬を愛していたことがよく分かるのであった。 「お母さんね、ポン助が死んだ時、もう生きていけないと思ったのよ」 ちなみにポン助とは久美子の実家で飼っていた犬の名前でドーベルマンである。写真を見ると人を噛み殺したことがあるような貫禄を持っていた。 「一人で近所の駄菓子屋にアイスを買いに行くほど可愛いし賢かったのよ」 久美子の思い出話になっていた。それにしてもあんないかつい犬が一人でアイスを買いに行くとは……。駄菓子屋のお婆ちゃんの反応が気になるところである。 「とにかく、アンタはこの子を最後まで世話する覚悟あるの? 最後、全身が冷たく固まっていく時まで一緒にいてあげる覚悟があるなら飼ってもいいわよ」 実際、犬の最期を看取る時は全身が冷たく硬くなっていく様を見なくてはいけない。久美子はそれを経験しているだけに、生々しくも説得力があった。 とは言え、風雨に晒され空腹に耐える生活にこいつを戻せるだろうか? 将人は非情ではなかった。ここで放り出したらどうなる? 保健所で薬殺されることも十分にありえる。餓死した挙句、蠅や蛆のたかる最期を迎えさせるか? 保健所で殺された挙句、ゴミ袋に入れられて燃やされる最期を迎えさせたいか? こうなるぐらいならうちで幸せになってもらおう! 将人の腹は決まった。 「俺が最後まで世話するよ! 拾っちゃったし」 久美子は将人の顔を見て満面の笑みを浮かべた、将人の覚悟を見たかったのだのだろう。 「まあ、自分で世話するって言うのに限って、実際はあたしまかせになるんでしょうね」 「自分で世話する」と言うのは子供が犬飼うために親を説得する時の常套句である。実際に「犬が欲しいから世話全部する」と御高説を垂れても時々の散歩と餌やり程度しかしない者が大半である。
/102ページ

最初のコメントを投稿しよう!