第31話 初診:無口な王

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やれることはやろう。 やれることがあればやろう。 いくら前向きに考えても『やれること』が見いだせない。 足掻いても無駄だと思ってしまっている自分が悔しい。 強く握りしめた拳であったが何も掴めない。 シールド魔法を駆使し、酷使し、奴の攻撃を防ごうと何度も試みるが、奴が繰り出す密度になす術なくダメージが加算される。 俺がこの戦闘で唯一有効なのは、このシールド魔法。 絶望を感じていたときに、背後から声がしてきた。 聞き覚えのある声。 体格に似合った少し低いバリトンボイス。 小汚ない道具屋のお出ましだ。 「まさか、本当にライが皇帝(エンペラー)を目覚めさせているとはな。ライを中心にこのゲームの世界が回ってるんじゃないかと、いよいよそんな気がしてきたぜ」 「エンペラー?ファラオの事か?」 振り向き、視界に現れたのはズンセックとその仲間だった。 「あぁ、このイベントで出逢える最高難度のBOSS。それが奴【ファラオ・メルエンラー】だ。安心しろ、確かな情報だ」 ズンセック達は、最高難度のイベントがどこで発生するかについての情報ばかりを集めていたとのこと。 ズンセックのことだ。情報を手にしここまでやってきたのだろうけど、俺とリコの2人しかいないこの状況では、救世主のように思えてしまう。 奴の話では、あるゲートで【物知りじいさんの捜索願】という中難度のイベントをクリアした際、物知りじいさんから、一番強いモンスターについての情報を手に入れたらしい。 物知りじいさんの話では、かつてサフランカ地方で文明が栄えていた。その時の王は権力だけでなく、知力や求心力もあり、民からの人望も厚かった。また、魔力に優れ最強の魔法師としても有名だったそう。だが一方で、この頃は、燐国同士との紛争も絶えなかったらしい。 とある夜、突如巨大モンスターの群れが現れ、文明は崩壊した。その後は最強の王は永遠の眠りにつき、全ては砂の大地に埋もれた。 そんな伝説があった。 「最強の魔法師ねぇ~そりゃ、ノータイムで魔法が発動できるわけだ」 「ライ……」 「あぁ、わかってるって。ズンセック達も闘ってくれて大いに結構。むしろ助かる程だ。ラストアタックも限定しない。 『仕留めたものが勝者』恨みっこなしだ」 「さすがライ。来た甲斐があったぜ。あんたがいれば攻撃だけに専念できるからな」 こうして、ズンセック率いる盗賊(シーフ)チーム『ウィダーガリー』と共闘することとなった。
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