第31話 初診:無口な王

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『ウィダーガリー』のメンバーはリーダーのズンセックを入れて4人。ジョブは共通して盗賊(シーフ)という、一色パーティーである。 以前、衛兵チーム『ファブルジョイノ』と闘ったことがあったが、同一ジョブで結成されているチームは統制が取れている事が多く、崩れにくい。 盗賊(シーフ)は機動力に優れているジョブではあるが、ダメージディーラーとして君臨できるほど攻撃力が高いわけではない。 彼らにって攻撃とは、あくまで手段であり、有効打ではない。 やはり盗賊(シーフ)は機動力だ。 機動力を駆使することで、相手のペースを乱すか、倒される前に逃げるという行動をとるのが一般的だ。 それに加え『ウィダーガリー』の戦法は実に幅があり面白い。 「ファラオ。確かにこいつはこのイベント内で別格クラスだな」 そう言い、不用意に近づいたズンセック。距離とすればファラオが1、2歩動けば掴める位置である。 「あ、危ないよ、院長止めなくて良いの?!無数の矢が出たらすぐ刺さっちゃうし、捕まっちゃうよ!!」 焦るリコ。 そう言えば、ズンセックが本気で闘っているところをリコは間近で見たことはなかったっけ。 「大丈夫だ。ズンセックは俺と違って、無茶はしない。あの場所なら安全だと確信できる『情報』があるから敢えて(・・・)近づいたんだ」 ファラオは手を伸ばすモーションをした……が、ズンセックは装備していたダガーで迷わず斬りかかった。 ファラオの指を。 「あれ?!矢が出ない!!」 ファラオは懲りずに逆の腕も動かしたが、ズンセックはまたも指を狙った。 「見たかリコ。あの芸当こそが、ズンセックの得意スタイル。 知り得た相手の情報を最大限に活用し、相手のスキル発動を阻止する行為。 『スキルキャンセル』 ズンセックは、どのタイミングで邪魔をすれば相手のスキルを封じることができるかを数多る『情報』を元に分析し、実行するという、言わば『嫌がらせ(グリーフィング)』のプロだ」 嫌がらせ(グリーフィング)とは、対人ゲームなどで、他のプレイヤーに対し迷惑行為を行い相手側に不快感を与える事をさす。 無駄に相手の進路を塞いだり、騒音をたてて不快にさせたりと、手段は様々であり、最低な行為である。 だが、ズンセックはそんな底辺とは違う。 あいつは、決して稚拙な嫌がらせはしない。 嫌がらせ(グリーフィング)を極めたからこそ、鮮やかに、そして『戦略的』に行う。 また、ズンセックが極めているのはスキル発動を阻止する『スキルキャンセル』。 刹那を見極めた神がかった動作は、誰も真似できない。 故に、ズンセックの嫌がらせ(グリーフィング)行為は芸術的であり、対戦相手ですら認めてしまうほどの技である。
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