第31話 初診:無口な王

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二度のスキルキャンセルを成功させた後、ファラオとの間合いを詰めては攻撃をしかけたズンセック。 だが、あっさりとこちらに引き返してきた。 「珍しいな。間合いを詰めたらずっと至近距離で嫌がらせ(グリーフィング)をするスタイルじゃなかったっけ?」 「あぁ。可能ならな。だが、奴に攻撃をいれても『1』しか表示されねぇと、相手に踊らされている気がしてな」 ズンセックの攻撃でさえ、3しかダメージを与えることができなかった。 スキルキャンセルを成功させたときに指を狙った2回と、最後の腹部への斬撃の計3回。 戦略とすればズンセックに軍配があがったが、依然としてこちらの不利に変わりはなかった。 「こうもダメージ『1』が続くと、圧倒的な差を感じるよな」 俺はそう言うと、ズンセックは意外な言葉を返してきた。 「『情報の』な」 「『情報』?情報次第では奴にこれ以上のダメージを与えられるとでもいいたそうだな」 俺はズンセックにそう尋ねると、返ってきた答えは『YES』だった。 ズンセックの分析はこうだった。 守備力と攻撃力において、数字からくるダメージ判定およびダメージ量はほぼ一定を指す。 たまに、『会心の一撃(クリティカルヒット)』によりダメージ量が増えたり、その逆で『不出来の一撃(クリティカルエラー)』により少量のダメージになるが、この2つが発生する条件は極めて低い。 だが、『不出来の一撃(クリティカルエラー)』がこうも連続して現れるのは、レベル差以外の『何か』が働いているとズンセックは推測していた。 が、ズンセックをはじめ、俺達はファラオの事をまだ何もわかってはいない。 躊躇している間に、ファラオは動く。 凪払うようにゆっくりと水平に手を振った。 すると地面から大量のアンデッドモンスターが低い声を上げながら現れた。 「おいおい、このBOSSは召喚(サモン)も出来るのかよ」 そう言いながら『ウィダーガリー』のメンバーは各々に出現したモンスターを片付け始めた。 「さすが、機動力トップクラスのチームだな。処理が早い」 「褒めてるのか、ライ。俺達は雑魚処理に来たんじゃねーぞ?それに、見ろよ。敵を観察したいのは俺達だけじゃないみたいだぜ?」 ズンセックはそう言い、ファラオを指差した。 ファラオはモンスターを出現させたあと、後ろへと下がり、『ウィダーガリー』のメンバーが闘っている状況を観察していた。 「あいつもこちらを分析しているのか?!」 「みてぇだな。奴は本能のみで攻撃してくる獣系モンスターとは違う。相手を分析し、戦略を練り、実行できる、知力の高いBOSSのようだ。 不可解なダメージ『1』のカラクリを解かないと俺達に勝ち目はないみたいだな。」 そう言うと、ズンセックは俺の肩を叩いた。 「ライ。お前の戦術プランが出来たら教えてくれよな?俺は今から闘いに集中してくる。戦術的に必要なら俺達を助けてもいいし、見棄ててくれてもいい」 そう言うなり、ズンセックは再度ファラオとの距離を詰めた。
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