第31話 初診:無口な王

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睨むようにして互いに様子をみているが、どちらも先手を取ろうとはしなかった。 ファラオも攻撃のモーションには入らず、ズンセックの行動を分析しているように見える。 『ウィダーガリー』の一人が、ファラオに対しダメージを与え、(ひる)んでいるうちにズンセックの側まで近づいたんだ。 「親分、助太刀します」 「あぁ。それにしても参ったぜ……こうも用心深いBOSSだと、こちらのウィークポイントを知られるのも時間の問題だな。さて、ライがそれまでに、勝利の方程式を確立してくれるかどうかにかかってるな」 「……親分。あのヒーラーが、以前から親分が注目してたヒーラーですか?」 「あぁ。ライは凄い。敵に回すと厄介だ」 「確かに、あのヒーラーが絡んでいるパーティーは今までのイベントで多くの功績を残しています。だがそれは、あくまでチーム内の他のメンバーが強いだけであって、あのヒーラー自身は強くないのでは?」 「ふはははは。マークスよ。そうかもしれねえな」 「だったら……」 マークスは二刀流バーサーカーのリコを中心にした撹乱スタイルで戦闘するべきだと提案した。 リコの俊敏性は極めて高い。リコが敵を引き付ける間に『ウィダーガリー』のメンバー全員でファラオのライフを削るべきだと。 仮にリコのライフが削れても、仲間であるヒーラーが回復させるだろう、と。無理に『ウィダーガリー』のメンバーだけで危険な任務をするべきではないと主張した。 だがズンセックは笑ってマークスに伝えた。 『大丈夫だ、ライは医者(なかま)だ。信じてやれ』と。 ズンセックから諭されたマークスであったが、小さな返事を返しただけであった。 しかし、ズンセックやマークスだけでなく、『ウィダーガリー』の残りのメンバーをはじめ、リコやライも共通の不安を抱えていた。 ダメージ『1』の現象。 マークスの攻撃も残念ながら『1』であった。 今、BOSSと闘っている中で、ジョブ別に見ると盗賊(シーフ)が4人、二刀流バーサーカーが1人と、治癒師(ヒーラー)が1人。 戦い方としては、リコやズンセック、マークスのように、ファラオの傍にまで接近しないと斬撃も届かない。 この場には、ショートレンジを専門にしたアタッカーしか存在していない為、誰かが近づかなければ攻撃が当たらない。 近づけば近づくほど、危険度は格段にあがる。 実際、ファラオが土の中から召喚したアンデッドモンスターにより、お互いの位置が分散されている状況であり、複数でファラオに斬りかかることができるタイミングは何回もはないだろう。 おそらく1、2回チャンスがあるかどうか。 一方で、徐々にライフゲージが奪われている現状にマークスは独り苛立ちを見せていた。 「親分は何も出来ないあの治癒師(ヒーラー)を信用仕切っている。あんな奴に『ウィダーガリー』全員の命は預けられない……副リーダーの俺が何とかしないと」 マークスはアンデッドを倒しながら、独りで呟いていた。
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