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ファラオは動く。
至近距離にいるマークスを殺すために。
『こんな筈ではなかった』
マークスの心は現実を受け止めることが出来ない。
確かに、自らの眼で確認した数字。『1』以外のダメージを与えることができるのは右脚だったはず。
治癒師のプランを破綻させてでも強引に捩じ込んだマークスの一撃は不正解だったようだ。
マークスは気づいた。
右脚は弱点では無いことに。
裏切ってまで追い求めていた栄光のオアシスは蜃気楼のように初めから存在していなかった。
『1』ではなく『2』のダメージを与えたのは、弱点でも策でも何でもない。
たまたま『会心の一撃』となっただけだったのだ。
この現実を受け止めるには時間が短すぎる。
唖然とした表情のマークスに対し、ファラオは至近距離から攻撃のモーションに入る。
抗うことも、震えることも忘れたマークス。
眼に映るもの全てが嘘のように思えた。
イベント最強BOSSの事も、自分が『ウィダーガリー』の副リーダーである事も、
そして、
治癒師が俺を助けようとしている事も。
「治癒師……お前」
マークスは理解できずにいた。
これから俺はファラオに殺される。死ぬまでに時間が少しでもかかれば、治癒師の詠唱がもしかしたら完了し、回復魔法をファラオに浴びせる事ができるかもしれない。
それにも関わらず、俺が死の淵にいることを察するや否や、大事な詠唱をやめ、俺なんかの元に駆け寄ろうとしている。
何故だ?
役に立たない俺なんかを助けるために、詠唱をやめるなんて……
ただ、
心の底から涌き出てくる感情に押し潰されそうになる。
「すまない……」
「んや、マークス。謝るにはまだ早すぎる」
ライはそう言い、マークスをその場から突き飛ばした。
代償として、ファラオの攻撃を無防備のライが受けるかたちとなってしまった。
「院長っ!」
「ライっ」
リコとズンセックの声が祭壇室内に響き渡った。
が、心配して声をかけたところで現実は好転することはなかった。
ライのライフゲージは残り1割をきっており、また激しい衝撃をノーガードで受けた事により気絶していた。
「生きてる……院長は生きてるよね?!」
焦った口調でズンセックに話しかけるリコ。
「あぁ……辛うじてな。だが最悪の状況だ」
リコに言葉を返したが、ズンセックも戸惑いを隠しきれずにいた。
司令塔のライは絶命寸前。
マークスは武器と自信を喪い倒れたまま起き上がれない。
アスティーとモガの2人で群れを抑えるにも限界を迎えていた。
リコは落ち着きがなく、とてもこれから作戦を共有できそうにもない。
頼みの綱であるライは意識が無く、ズンセックが助けにいこうにも近づけない状況であった。
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