第31話 初診:無口な王

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(3) 「ここは……」 朦朧とする意識を何とか留めた俺は、重たい身体を起こした。 見覚えのない景色が拡がる。 荒れ果てた民家やお店が両脇に並んでいる。 が人の気配は無かった。 俺はその間にある道で倒れていたようだ。 直前の記憶が定かではない。マークスを突き飛ばしたところまでは憶えているが、その先は曖昧だ。 「ファラオの野郎……医者相手に手加減無しで攻撃しやがって。それに、ここは一体何処だよ」 俺はファラオに殺されたのだろう。 死んだ場合、フリーフィールドに戻されるのが本来であるが、もしかしたら敗者用のイベントに飛ばされたのかもしれない。 『ウィダーガリー』の奴等やリコはなるべくこの場所には来てほしくはない。 「誰だっ!!き、君も、破滅の使徒か?!」 背後から大きな声で俺を威嚇する者がいた。 「ん?誰だお前?!」 「僕だって、お仕えする者だっ!命に代えてでも排除するっ」 そう叫び、持っていた槍で俺を一刺ししようと(おそ)いかかってきた。 いや、 『(おそ)いかかってきた』と言うべきか。 『本日からゲームをプレイし始めましたっ!』と言わんばかりの、初期能力並みの脚力に攻撃速度。 はっきり言って、アリストテラスの移動速度と大差ない。 俺はひょいと躱した。 「落ち着け。それより診てやろうか?傷だらけじゃないか」 俺はそう言うと回復魔法を詠唱した。 攻撃してきた者は服がボロボロで生傷が痛々しい状況であった。 「な、なんだこれは?!」 「回復魔法……だよ、知らないのか?」 「回復……『魔法』?これが?」 「あぁ。俺は治癒師だからな。魔法を見るのは初めてか?」 俺はそう尋ねた。何故なら、移動速度も初期レベルの遅さだった為、もしかしたら魔法を見るのも初めてかもしれないと予想したからだ。 「ありがとう。僕はイシス。それにしても、始めてみた発動方法だ……言葉と念をベースにしているのか……」 イシスは戦意を忘れ、俺へ近づいた。 「魔法は知っているようだが、回復魔法が珍しいのか?何度も言うが、俺は数少ない治癒師(・・・)だからな」 本当にヒーラーは少ない。 敢えて強調してしまった俺。 「いや、蘇生系の魔法士は多いから知ってるよ。詠唱速度があまりにも遅かったので驚いたんだ」 「おい、今なんて!!」 は? 俺の詠唱が遅いって言ったのか? ジョブ:ヒーラーの中では俺は最速の発動時間だぞ? 「え?!あ、助けてもらったのにごめんなさい!!」 「いやいや、謝らなくていい。怒ってるんじゃない。『遅い』って点について気になったんだ。あれより早い詠唱が……あるのか?」 「えぇ……もちろん」 イシスは断言した。 「何かみせてくれないか?」 「ぼ、僕がですか?!えっと、1つしか発動できませんが、それでも良いですか?それに回復系や攻撃系ではなく、デバフ系ですが」 「なら、ちょうどいいじゃないか。俺にイシスの魔法をかけてくれないか?」 可能であれば避けてみよう。 俺と詠唱時間や発動時間が同じくらいならば、俺の脚力で避けられる筈。イシスには悪いがな。 俺はいつでも避けることが出来るよう構えた。 「デバフをかけてくれだなんて、珍しい人だ……わかりました。終わりました。」 は? 終わりました? 「な、何言ってんだよ……早く詠唱をしろよ?」 「え?だから、もう終わりました……よ?」 イシスの言葉を聞いて血の気が退いた。 慌ててステータスを確認すると、確かに守備力と素早さの数値が減っていた。 「い、いつ発動したんだ?見えなかったぞ」 いや、この速さは見覚えがある。 イシスは照れながら答えた。 「いやいや、ファラオ様に競べたらまだまだですよ」と。
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