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「は?今なんて……」
「え?ファラオ様ですよ。ファラオ・メルエンラー様。この国を統治されてる御方じゃないですか。その様子じゃ本当に破滅の使徒ではなさそうですね」
「さっきから俺の事をその『破滅の使徒』と疑っているが、聞かない名だな」
俺は尋ねた。
するとイシスは悔しさを滲ませながら話してくれた。
『破滅の使徒』とはファラオと敵対する燐国の集団だそうだ。
ファラオが統治している、このサフランカ地方北西にある採石場の利権を巡って先日、大規模の紛争が起こったとのこと。
今俺とイシスがいるこの村は、その採石場から最も近く、紛争で村の大半が半壊や全壊の被害を受けたらしい。
「んで、イシスはファラオの遣いってわけだな?」
「ファラオ様っ!!君からは敵意を感じないが、ファラオ様を呼び捨てするだなんて、どんな神経をしているんだ?
もしかして、本当は僕を油断させておき、ファラオ様を狙う賊ではないだろうな?」
ジロリと睨みながらこちらを窺うイシス。
すまんな、イシス。
残念だが、その通りである。
一度はファラオを攻略しようとしたプレイヤーだ。
まぁ、負けたがな。
ただ、無駄な紛争を好まない俺は「ははは」と乾いた笑いを交えて誤魔化した。
さて、
この敗者用のイベントをさっさと終わらすかな。
イベント内でBOSSに負け、ゲームオーバーになった場合、今のようなプチイベントがごくたまに発生する。
イベントと言っても、NPCにストーリーの後日談を聞いたりする等、簡単な内容が多く中身は薄い。
プチイベントがある理由として、運営側は『ファンサービスの一環』と公表しているが、実際のところは、プレイヤー帰還の際の混線を防ぐ為に用いられており、重要な話や特典など発生しない。
だから、さっさと済まそう。
周りをみた感じ、イシス以外に話す相手がいないから、そろそろ帰還出来てもいい筈なんだが……
俺は、歩こうとした。
だが、その瞬間、脚の自由が奪われその場で倒れてしまった。
「あれ……おかしいな」
おかしい。急に脚が動かなくなった。
「だ、大丈夫?!どうしたの急に!!」
俺が倒れたのをみて慌てるイシス。
「わからない……急に脚が動かなくなった……て」
今度は話す事さえ儘ならない状況となった。
だが俺に焦りはなかった。
帰還する順番が来たからこのまま強制帰還するんだろうけど、何とも後味の悪い帰還方法だなと思っていたとき、
知らない声がした。
「君、まだ意識はあるか?」
誰の声だ?
「どうか、この方を助けてください。私の傷を癒してくださった人なのです」
イシスの声は確認できる……
もう一人はいったい……
意識が吹き飛びそうになったが、次の瞬間、身体が重力を思い出したかのように脚の感覚が戻ってきた。
指や口も動かせるぞ。
「あれ……俺、話せる……のか?」
「貴方はグーグリオ・スコーピオンの毒に侵されていた。だが、安心しなさい。解毒は終えている」
俺に話しかけてくれた長身の男性。
俺は男には全く興味はないが、なかなかのイケメンである。この人物が俺を助けてくれたようである。
ズンセックのようにゴツすぎず、しなやかであるが、筋肉は十分にあった。胸板も厚く、なかなかの肉体美である。
「俺を助けてくれたのか?」
「えぇ勿論。貴方は我が同士イシスを治癒してくださったとの事。感謝の念に堪えません」
「いやいや、大した事はしてない。気にしないでくれ。俺はライだ。えっと……」
名前を聞こうとしたら、イシスが笑ってこちらに話しかけてきた。
「やっぱり、本当に賊ではないようだな。こちらの方がファラオ様だよ?」
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