第31話 初診:無口な王

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「良いのか……俺みたいな部外者にそんな秘技を伝授しても……。俺はファラオのライフゲージを奪う可能性がある賊……だぞ?」 「ははは。ファラオ様な。それに、ファラオ様はサフランカ地方最強の魔法士。ファラオ様と同じ詠唱法を修得したとしても、敵う者はいないさ。 ファラオ様はライの治癒魔法に期待されている。……他の誰でもない、君に。 是非、ファラオ様の為に詠唱法をマスターし、ファラオ様の助けの一つになってもらいたい。頼めるかい?」 イシスは俺の瞳を見つめた。 眼球の奥、俺の心までを見ているかのよう。 「わかった。約束しよう」 短い言葉で承諾したあと、イシスは俺に詠唱法を教え始めた。 「ライ。端的に言うよ?君が魔法を発動する手順は、①念を魔法陣に籠め、魔法陣を出現させる②発言し発動、の大きく2段階、もしくは念を籠める前にも発言する3段階のステップを経て発動しているんじゃないかな?」 「あぁ。そうだ」 「それじゃあ、遅いんだ。つまり、魔法陣を作るまで、それに形成され発動準備が完了するまでの間に【時間】という異物が紛れてしまうんだ。 これは念を送る術者の技量にも左右される。わかるかい?」 「そりゃ、わかる。だが【念を送る】動作がないと、そもそも魔法を発動する魔法陣が形成しないじゃないか?」 俺はそう言い返すと、イシスがニヤリと笑みを見せた。 「じゃあ、魔法陣がないと魔法が発動できないだなんて誰が決めたんだい?」 「は?いや、それは皆同じ……」 いや、違う。 ファラオと闘ったときも、イシスがデバフ魔法を発動した時も、 【魔法陣】なんて一回も出現していない。 事実にたどり着いた俺の思考は行き場を喪い、鳥肌が止みそうにもない。 理屈があり、発動する手法をイシスから知り得たとして、俺は発動することができるのだろうか…… 不安と期待が脳裏を掠めては定着しようともせず暴れだす。 「お、俺でも出きるのか?」 思わず本音が漏れた。 今、この段階でプチイベントから強制帰還させられたら、俺は発狂するかもしれない。 仮に、この内容はプチイベント内のジョークであり、嘘の情報だとしても最後まで知りたい。 中途半端なままは飼い殺しだ。 俺は、これほど帰りたくないと心の底から願ったのは初めてかもしれない。 「大丈夫、出きるよ」 イシスの回答が、俺の心の曇天を晴らす光のように感じた。 「良いかい?ライが行っていたのは、魔法陣を作成するための詠唱であって、魔法とは直接関係がないんだ。 ファラオ様の魔法の発動方法は、根本的に違う。発動させる為のプロセスそのものを自分で形成するのさ」 「……はぃ?」 意味がわからない。 発動するプロセスを自分で作る? 「ははは。ライも不思議そうな顔をしているね。ファラオ様から初めて教わった時、僕も同じ顔をしていたと思うよ」 笑ったあと、イシスは丁寧に教えてくれた。 魔法を形成し、発動するプロセスを『魔法陣』という選択肢を取るのではなく、魔法そのものを作成しろとの事。 「魔法を作る素材や手順書(レシピ)があるのか?」 俺の質問にイシスは驚いた。 「……いい質問だね。そうだよ。魔法は全てある素材をベースにできている。 それは【魔力帯】だ。 魔力帯は、無数の術式が羅列してある」 「魔力帯……初めて聞く名だ」 「魔力帯は、名前の通り『魔力』で構成されている。つまり、魔法陣を造らずとも、ライが持っている魔力を消費し、魔力帯そのものを創れば、それは魔法となり発動できるのさ」
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