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術式が並ぶ帯を魔力帯だと教わった俺は、イシスの案内のもと、負傷者の救護にあたった。
「イシス、この札を右奥の患者から順番に渡すか身体に貼ってくれ。赤、赤、緑、黄、黄、赤、黄、緑だ。急げよ?」
「わ、わかったよ!」
「続いて、この列は奥から、緑、緑、赤、黄色、赤、赤、緑」
「は、はい!」
イシスを急かす俺。
渡したタグの色を確認するなり、重要度の高い色から治癒魔法を詠唱した。
「あ、貴方はいったい……」
「安心しろ。俺は、あんたらのBOSS様から頼まれた、流れのヤブ医者だ。痛くされたくなけりゃ、じっとしてろよ?」
ったく。
ファラオの詠唱法を覚えたはいいが、魔力帯を自ら創るには、膨大な魔力を消費するため、俺の精神力が急激に低下しているのがわかった。
そりゃあ、ファラオ級の底なし魔力数を保有していれば問題ないのだが、いち治癒師ごときの魔力数では底が知れている。
患者を回復させつつ、持っていた魔力回復アイテムをグビグビと喉をならしながら補給する始末。
だが、文句ばかりも言ってられない。
ファラオの詠唱法である【古代詠唱】の発動スピードは従来とは桁違いだ。
さすがに、ノータイム発動に至るまでは今後かなりの修行が必要だが、それでも、今の状態でも患者をほぼ待たすことなく回復魔法を発動できている。
「ふぅ……とりあえず終わりな」
「ライ。君は、最高の治癒師だっ!!まだ魔力帯を形成する時間はかかっているけど、それでも魔法陣無しで発動できているよ!さすがファラオ様がお認めになられた人物なだけはあるね!!」
「イシス……まだ安静を必要とする患者もいるんだ、あまり騒いでやるなよな?」
「そ、そうだね。気をつけてるよ。それより、さっき僕に配らせた色のついたカードは何?」
「あれはトリアージさ。患者の優先度を色別けしたんだ。いいか?患者が多い場合、全員を救えないケースになる事が多い。その場合は『一人でも多くの命を救う』事を優先しろよ?俺の言っている意味……わかるか?」
「どういう事だい?」
イシスは聞いてきた。
「もし仮に、今後大切な人が死に直面、いや、死ぬことが確定したとしよう。その場合は、今助けることができる命を優先しろって事だ。例えそれが『ファラオ様』であってもだ」
「ファラオ様が?!どういう意味だよ?!」
「イシス。あんたが言ったじゃないか。サフランカ地方は隣国と紛争をしたって。また、いつ紛争が起きるかわからんぞ?」
「それなら大丈夫さ。ファラオ様は本日、この特別な日に隣国と和平協定を結ぶ運びになっているからね」
「ん?特別な日?」
「あぁ、そうさ。今日は辺りが闇に包まれる『闇夜』の日さ。史実では三代前の王様がおられた時に訪れて以来の珍しい日さ。
『破滅の使途』の一部が暴徒化したことを隣国がファラオ様に対して正式に詫びたいと向こうから言ってきたんだ。その指定された日が『闇夜』なのさ」
おいおい。待てよ、なんだって?!
闇に包まれる日が珍しい……だと?
待て待て。
そう言えば、さっきファラオと出逢ったときの違和感が気になる。
仮面をつけず、包帯もしていなかったってことは、俺が今、体験しているプチイベントはファラオがサフランカ地方を統治していた時代を体験している……ってことになるよな?
そうなると、
ズンセックが知り得た情報では、確かサフランカ地方は、隣国の襲撃により文明は崩壊したって言っていた……よな?
それは、確か……夜。
イシスは『闇夜』が珍しいって……
じゃあ、ファラオは今から隣国の襲撃に遇い、滅ぼされてしまう……のか?
「イシスっ!ファラオはどこだ!!」
「えっ?!だから和平協定……」
「それはハッタリだ!!ファラオの命が危ないかもしれないっ!場所を教えろ!」
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