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イシスからファラオの居場所を聞き出した俺は急いで向かい、なんとか合流できた。
「ファラオ……どうやら間に合ったようだな?」
俺はファラオの姿を捕えるなり確認魔法を発動した。
やはりファラオのライフゲージは敵襲によりダメージを受けていた。だがまだライフゲージには余裕があった。
「ライ、いい腕前だ」
畏れ入った。
対象を分析する魔法系は、対象者に悟られないよう、認識無効化の術式が含まれているのだが、俺が確認魔法を発動したことさえファラオは感知していたのだろう。
ファラオは俺が魔法を発動したことに気づいたからこそ、先程の発言に至ったのだろう。
感知できるなんて、さすが最高峰の魔法師だ。
「あんたの発動方法だろ?素直に俺を褒めているとも思えないな」
「ライ。君が此処にいるって事は」
「安心しろ。村にいた患者とイシスは無事だ。それに、村から離れるようにと指示してある」
「!!……へぇ。君は本当に不思議な人だね。相手国の奇襲を察知していたかのような口調だね」
「安心しろ、ファラオ。『確かな情報』だ。敵は巨大モンスターを引き連れて奇襲してくる。砂を泳ぐ鯱も来るぞ?」
阿漕な商売をする裏情報屋の口癖を真似てみた。まぁ、奴から獲た情報だ。間違いはない。
「君の言うことが本当なら、民の避難は完璧だ。だが、ライ。君はここにいるべきではない。『破滅の使徒』でなければ、早くここから逃げなさい」
「いや、まだだ」
「何だい?」
「ファラオ。あんたもだ」
「……」
「この闘いは避けろ、ファラオ。あんたの命が危ない。今回は退いて、次の機会で挽回すべきだ。だから俺はあんたを迎えに来た。イシスと約束した。
『ファラオの助けの一つになる』と」
その時、
多くのモンスターの呻きが聞こえてきた。
「ちっ……やっぱり来たか!!おい、ファラオ!何ぼーっと立ってるんだよ!逃げるぞ?」
ファラオは指を動かし、光るゲートを作り出した。
「転移魔法だ。ライ、入りなさい」
ファラオに背中を押された俺は、ファラオが作り出したゲートの中に入れられた。
「転移魔法さえノータイムで発動だなんて、ファラオはチート級だな。さ、ファラオも……」
「転移魔法は、独りしか入れない」
ファラオの言葉に俺の嬉しさはかき消された。
「な、何言ってるんだよ!!お前も早く次のゲートを作れよ!!あんたの民がみんな心配して待ってるんだぞ?!」
俺はゲートから出ようとしたが、強力な結界の網に邪魔されて通過できなかった。
「ありがとう……ライ」
「感謝なんて、される覚えはねぇぞ?!みすみすあんたをこんな奇襲で殺されてたまるか!!」
俺の叫び声は虚しく響く。徐々に結界が小さくなり、ファラオがいる戦場の景色も見辛くなってきた。
俺は、無力だ。
ファラオが作った転移魔法ひとつ破壊する能力もない。
だが、
転移魔法は役目を終え、ファラオの前から無事に消えた。
「治癒師ライ……か。不思議な者だった。まるで未来から来たかのようだ……ん?これは」
ファラオは気づいた。
自分のライフゲージが回復していることに。
「結界網を掻い潜って回復魔法を私に浴びせるとは……やはり素晴らしい能力者だ、彼は」
ファラオはモンスターの大群に向かい笑いながら構えた。
「彼がいる未来があるなら、サフランカ地方は安泰だ」
迫る紅い鯱に対し、そう言い放った。
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