第31話 初診:無口な王

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(4) 未だ誰一人として死んではいない状況。だが、司令塔のライが意識不明で倒れこんでいる状況下で、皆の闘志は既に灯火を失っていた。 マークスは雄叫びをあげ、無謀にもファラオに挑もうとしたが、ズンセックはマークスの腕を掴み、制止させていた。 「は、離してくだせぇ!あいつは、治癒師は裏切った俺なんかの為に犠牲になっちまったんだ!!落とし前つけさせてくだせぇ、親分っ!」 「『気にするな』とは言わねえが、落ち着け。ライが危険を侵してでもマークスを助けた意味を考えろ。ライはマークスが生きている方がいいと判断したから助けたんだ!!勝てるピースとして、お前が必要なんだろう。 武器を失ったからと自暴自棄になり、無駄死にをしても、それはライが望んだ姿ではない。命を粗末にするな、いいな?」 ズンセックの説得に声を殺して泣くマークス。 リコもライの想いを察しているのか、マークスを責めたりはせず「大丈夫、院長は負けないから」と笑顔さえ見せた。 アスティーとモガも副リーダーと目を合わせ優しく頷いている。 「情けねぇ……ほんとうに俺は情けねぇよ……」 後悔の念がマークスの心を埋め尽くしていたが、皆の優しさに正気を取り戻したマークス。 ただ、ファラオはお構い無しであった。 ズンセックと一定の距離を保ちながら連続で魔法を発動しては、息の根を止めようとしていた。 ズンセックの秘技『スキルキャンセル』が届かない絶妙な距離感を保ちつつの発動。 その為、防御一辺倒(いっぺんとう)になってしまったズンセックの持久力はみるみる低下し、ライフゲージさえ失い始めている。 誰もが『ゲームオーバー』の烙印を覚悟し、目を閉じたとき、 ファラオのライフゲージが極端に減った。 ファラオを狙う魔法陣や攻撃は誰の目にも映らなかった。だが、悶え苦しむファラオを見て『何かが』ファラオに作用したと悟った。 「な何かが起きた……のか?」 マークスは理解できずに放心状態のまま言った。 慌ててファラオはその場から離れ距離を取った。そして、その後ろから現れたひとつの影。 「もし、俺が体験した幻想(プチイベント)が本当の昔話だとしたら、俺の回復魔法は『懐かしい』と感じるかもな。なぁ?『ファラオ()』」 聞き覚えのある声。 声がしたかと思えば、間髪入れず『ウィダーガリー』のメンバー全員とリコのライフゲージが回復した。 だが、魔方陣は未だに出現していない。 「この優しい風に匂い……まさか!?」 リコの声の先には皆が願っていた姿があった。 「「ライ!!院長!!」」 皆の呼び掛けに答えたのはライだった。 「さぁ皆、快進(回診)撃と行きますか」
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