第31話 初診:無口な王

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リコの攻撃は主に上半身を狙っていた。堪らず腕を顔の前で交差をし、防御の体勢をとるファラオ。 相変わらず表示される数値は『1』のまま。全身に巻かれた包帯すら刻むことができない。 だが、リコの攻撃は前回と同じ動作であった。いくら前回この流れでファラオのバランスを崩せたとはいえ、同じモーションからくる剣技に対し、対策を練るファラオ。 最後の攻撃でバランスを崩すまいと更に防御姿勢に入る。 だが、ファラオにはある考えがあった。 リコの攻撃後に、ライの回復魔法がノータイムで発動するであろうと予測していた。 あくまで防御の姿勢はフェイク。 回復魔法を唱えることができるライの動きを注視していたのだった。 ファラオの魔法分析からライの魔法が発動できる射程は把握済み。 今はギリギリ射程外。だからこそ、ライは必ずどこかのタイミングで近づくだろう……と。 例えば、 腕を顔の前でクロスさせられ、前方の視界が開けておらず、直視し辛い時とか。 ファラオの予測は見事当たる。 ライは動く。 ファラオに向かって。 ファラオは、ライの動きをみて後ろに跳んだ。 『貴様の動きは読めている』と勝ち誇ったような自信ありげの動作。仮面からは表情が見えずともオーラがそう物語っている。 だが、 ファラオの動きを見て、ライは悔しがるどころか逆に、 笑っていた。 「さすが院長。全部当たってる」 そう呟いたのはリコ。そして、手に持っていた物をぽいっと投げた。 武器をロストしたわけでも、スナッチされたわけでもない。 意思をもって投げたのだ。 ライとズンセックの2人で共同開発したマル秘道具である、 その名も『回復薬β』。 使用すれば一定時間定期的に回復する、あの商品を。 リコは途中から右手でずっと隠し持っていたのだ。 『エクイップメント・スキル』 左右違う武器を所持できるリコのオリジナルスキル。リコとライの2人でデス・ナーガをクリアしたときに修得したスキルを使って。 リコの手から離れ、宙を舞う回復アイテム。 「治癒師(ライ)さんからだ。これが本当の『冥土の土産』だな」 そう言い、ファラオの頭上で回復薬βを素手で割ったマークス。 彼のモーションは速く、ファラオでも対処できずにいた。 ファラオは回復魔法に弱い。ファラオの頭では、必ず治癒師が距離を詰め発動してくるとばかり思っていた。 だが、致命傷を狙っていたのは、ライやズンセック、リコでもなかった。 武器を喪い、何も持っていないマークスだったのだ。 マークスに対し無警戒だったファラオは、避ける術もなく、回復薬βの雨を全身で浴びてしまった。
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