第32話 後継者と秋山からの依頼

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カランコロンと扉の鈴が鳴った。 来客を示す音ではあったが、俺は警戒した。 店に客が来る。 その当たり前の行為に対して警戒をしたのだ。 ズンセックは表向き上、道具屋ではあるが、裏家業で生計をたてている。 ズンセックの店に用がある人間は『情報』の売買にやってくる。 客同士からすれば利害関係が濃かったり、敵同士であることは良くある話。 そして、 俺だけでなく、ズンセックも警戒していた。 「お客さん~、困りますねぇ、勝手に入ってこられたら。『close』の文字が見えませんでしたかねぇ?」 そう。 商談中はなるべく顧客同士が鉢合わせをしないよう、店の表には『close』の看板を設置していた。 それにも関わらず、入ってきたのだ。 緊張が走る。 入ってきたのは、老人が一人。 モンスターを狩るには乏しい身体であり、このゲームの世界にいるのが不釣り合いだ。 怪しいと感じ、すぐに古代詠唱で対象を分析する魔法を発動した俺。 ーーーー モロヘイヤ(所属ギルト:ウィダーガリー) ジョブ:二刀流治癒師(ヒーラー) ーーーー (ズンセック、お前のチームに5人目はいるのか?) (いや……アス、モガ、マーに俺の4人だ) だろうな。 俺はズンセックを下がらせ、入ってきた客に話しかけた。 「招かれざる客のようだな、モロヘイヤ。あんたの身分証明が随分出鱈目(でたらめ)じゃないか……」 俺は包帯を巻いた左手で胸ぐらを掴もうとした。 「お、おいライ!!い、いきなり店の中で喧嘩は……」 「いや、放してくれズンセック。こうでもしないとこいつはまた図に乗る。秋山(・・)はそう言う男だ」 「……。いやぁ~さすが徳永くんっ!一発で僕だと見抜いちゃうあたり、『白衣の参謀』という異名は伊達じゃないねぇ~」 ズンセックの店に入ってきた謎の老人は、キャラとはかけ離れた話し方をし始めた。 JIHの代表、秋山一成。 馴れ馴れしく話しかけてくる役人であり、俺なんかに国費を充てるという、規格外の人間である。 「はぁ……。前回は、謎の偽装メール。今回はキャラの情報偽造とはな……運営側はこの事態を『良し』としているとは到底思えないぞ?」 「キャラの偽造?!どういう話だ、ライ?!」 焦るズンセックに対し、俺は秋山の事を説明した。奴は、どういうバグを使用したのかはわからないが『ウィダーガリー』に所属していないのにも関わらず、ギルド名を勝手に名乗っている。 それに、二刀流治癒師(ヒーラー)なんてジョブはそもそも存在しない。 そんな馬鹿を平気でやってのけるのはコイツしかいない。 「……で、ライから話を聞いた感じでは、ゲームとは無縁そうな、あんたが俺の店に何用で?」 「ズンセック氏。今回は、徳永くんの事に関する用があってね。このまま『蒼の一撃』に徳永くんの事を知られたら、損害が多いからねぇ~。君が徳永くんの情報を『売らない』ように釘を刺しに来たのさ」
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