第32話 後継者と秋山からの依頼

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「おいおい……いきなり現れて俺に『情報を売るな』とはいい度胸じゃねーか?俺が何を生業にしているか知ってて言ってるんだよな?」 ズンセックは、やや怒り口調で秋山に言いよった。 怒るのも無理はない。 『情報』なんて物は、形があって無いようなもの。情報を扱う上でのルールだなんてものは存在しない。 知っている者が強者であり、知らない者は不利になる場面も多くなるだろう。 そんな『情報』の売買も当然禁止されているわけではない。ズンセックからすれば、制限、あるいは自粛を促す指図は誰からも言われる筋合いはない。 一触即発の空気が店内で漂い始めたが、秋山は、いつも通りの口調で話を進めた。 「勿論『タダ』でお願いしようとは思わないさ。それでは不公平過ぎる。ズンセック氏が納得いくような対価を持参せずにお願いにくる程、僕は馬鹿じゃないさ」 そう言って、胸ポケットから小さなメモ用紙を取り出した。 「ここに、未開拓の湖底神殿へ行くための手順を記してある。これを交換条件といかないかい?勿論、情報の確実性は補償する。また、ズンセック氏以外にこの情報を入手したプレイヤーは存在しないし、今後僕から発信することもしない」 自信ありげな秋山。 ズンセック以外に情報を伝えないと言った秋山だったが、そんな口約束をズンセックが信じるとは思えなかった。 が、俺の予想に反し、ズンセックの態度が少し和らいだのを感じた。 「一つ質問だ。湖底神殿の情報……どこで手に入れた?」 「それは『秘密』……と言いたいところだが、これを伏せると僕の持っている情報の信用度が極端に落ちるからね。 情報源は、ずばり『運営側』から聞き出した。勿論、ゲーム内ではなく、リアルの方でね。 ま、聞き出したと言うよりは『勝手に入手した』という方が正しいかもね」 秋山は笑いながら言った。 運営サイドから勝手に入手したと。 盗賊紛いの行動にズンセックはニヤリと笑った。 「ライ……この人間は一体何者なんだ?」 「秋山は、現実世界の裏側でいろいろと怪しい活動してる偉いさんだ」 「いいぜ、ライの事に関する情報を『蒼の一撃』側に売らねえって約束しようじゃねーか」 「ズンセック氏が物分かりの良い方で助かります」 「その代わり、俺にも教えろよな?何故、蒼の一撃にライの情報を売ると駄目なのかを。あんたさっき言ったよな?知られると『損害が多い』って」
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