第32話 後継者と秋山からの依頼

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ズンセックの問いに初めて困った顔を見せた秋山。勿論、奴の事だ。その表情ですらフェイクの可能性もある。 だが、 「秋山。あんたがこの場に乗り込んで来た以上、この場に居合わせた者全てが当事者だ。話さなければ、俺はあんたに協力しないっていう選択肢をとるかもしれないぞ?」 「……完敗ですっ~。どうも、僕に不利な状況であることは間違いない。伝えることにしましょう」 そう言いながらも秋山は笑っていた。 全く、どこまでが冗談で、どこからが本気なのかわからない男だ。 「まずはズンセック氏からの問いから答えるとするかな。『損害が多い』とは、ずばり国益にならない事を意味してます。 ……と言っても、お二人は今一つわからないでしょうし、もっと端的に言っていきますね? まず、このゲーム内で『禁足地(きんそくち)』が発生しました」 「禁足地?新しいイベントか何かか?」 俺がそう尋ねると秋山は「残念ながら」と呟き顔を左右に振った。 秋山の話しは続いた。 禁足地とは、運営の管理外の場所の事を指しているそうだ。フリーフィールドは、運営側の管理下内ではある。そのフリーフィールド内に『禁足地』がこの度発生しているとのこと。 「秋山とか言ったな、あんた。運営側が管理しているフリーフィールド内で、管理外のエリアが出来たって話だよな?それって、おかしくないか?」 ズンセックの指摘は的を射ていた。 俺も同じような疑念を抱いた。 だが、仮に秋山の話が本当だとしたら…… 「ははっ。どうやら、徳永くんは何かに気づいたような顔だね?」 「ん?……あぁ。管理下内で発生する管理外エリア……。有り得るとすれば、システムの不具合か、バグ……もしくは……外部からのウイルス(乗っ取り)」 「ん~~!!すっばらしいぃ徳永くんっ!君の発言には毎回、好奇心を抱くよ。残念ながら、禁足地が発生した原因は、運営側も我々、国の人間でも現時点ではわからない」 「じゃあ、その禁足地とやらの周りに結界か柵なんか立てて、進入できねぇようにしたら良い話だろ?」 ズンセックの言う通りだ。 「当初、その対応が出来ていれば被害は無かったんだけどねぇ~」 「つまり……もう『被害』が発生しているのか?」 俺の問いに「えぇ」と答えた秋山。 「次に具体的な被害をお伝えしましょう。禁足地でライフゲージを失った者は修得していたスキルを忘れる、もしくはアカウント自体が無くなっている被害者もいます」 秋山の言葉に耳を疑った。 楽しくゲームをプレイする上で、最も大事な要素を欠落する可能性が生じる事に。 「そりぁ、困るかもしれないけど、それは運営側に報告したら直るもんじゃないのか?」 「残念ながら、管理外で起きた事象を戻すのは運営側でも難しいとの事です。ログ自体にかなりの損傷があるようで復元はほぼ0らしいです」 「だからって、国の人間が動くような自体……なのか?」 「いや、ズンセック……。恐らく被害は『そこ』じゃない……。アカウントやスキルを消失したプレイヤーが悲観や絶望をした結果、増えてるんだろ?現実世界での被害が。だから、秋山(あんた)は俺に頼みに来たんだろ?」 「自殺が数十件、放火に、殺人がそれぞれ2件ずつ。いづれも動機は禁足地関係でした」 秋山は振り返り、俺だけを見た。 「徳永くん。君に『禁足地』の内部調査を依頼したい」
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