第32話 後継者と秋山からの依頼

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(3) 「えっと……君が例のアイテム運搬君?」 「はい。よろしくお願いします」 俺に話しかけてきたのは、蒼の一撃のメンバーの1人。一刀流侍型の作兵衛だ。彼は今回禁足地に入るメンバーの確認をしていた。 蒼の一撃のメンバーは、この度、極秘に禁足地に潜入する策戦を立てていたのだ。 秋山はその情報をズンセックすら知らない極秘ルートから手に入れていた。 蒼の一撃は、この世界では最上位クラスのギルドである。生活の全てを蒼の一撃での活動に捧げているプレイヤーも多く、また蒼の一撃のメンバーを心から慕うファンも多い。 仮に、蒼の一撃のトップクラスのメンバーの誰かのアカウントが無くなった場合、錯乱した熱狂的ファンが自殺……だなんて事も容易に想像できる。 秋山の試算では、蒼の一撃を慕う熱狂的なファンは世界に200万人程いるらしく、流石に無視できない数ではある。 禁足地だなんて、危ない場所に何故行きたがるかはわからなかったが、噂では、禁足地はダンジョン形式になっているらしく、未確認の武器やアイテム、スキルが手に入るとの情報があるらしい。 勿論、禁足地が危険な場所であることも情報は一部では出回っている。 だからこそ、蒼の一撃のメンバーだけでなく、一緒に参加してくれる者を裏カジノで数名だけ募集していた。 禁足地に、最強クラスの蒼の一撃のメンバーと行けるとなると、参加したいと志願する猛者も何人かいた。 だが、実際はそんな綺麗事ではない。 使い捨ての駒を集めたかっただけだろう。 秋山からそこまで情報を聞いていた俺は、裏カジノへ行き、志願したのだ。 はじめは「もう募集してない」と断られたが、禁足地では何もいらない、アイテム運搬班でもいいから参加させてくれと柄に無く頼み込んでみた。 そしたら、特別に参加してもいいと許可が降りた。 と、言うのも、 「俺は、回復薬βの仕入れ業者だから用意できる」とアピールしたら、それまで頑なに首を横に振っていた奴が、縦に振りやがった。 回復薬βを運んでくれる雑用君が増えてラッキーくらいに思ったのだろう。 「私、聞いてませんよ!!蒼の一撃のメンバー以外のプレイヤーが参加するだなんて!彼らが危険な目に遇ったら誰が彼らを助けるの?!」 声をあげていたのはアリス。この前、俺の魔法発動を察知した、彼女だ。 アリスは、部外者である俺達が参加する事を知らされていなかったらしく、六番隊長のハーミットに問いただしていた。 「うひょ~見ろよ。あれが噂の剣聖のアリスだぜ?彼女に近づけるだなんて俺はなんて幸せ者なんだ、あんたもそう思わないか?」 「あ……あぁ、そうだな」 俺に話しかけてきたのは、俺と同じように飛び入り参加の男だった。こいつは、禁足地での未知数の武器やアイテムに釣られて今回参加したのだろう。 適当な相槌で誤魔化した。 俺は今回、アイテム運搬役としてひっそりと参加したいんだ。 目立つような行動は極力避けたいのに!! するとアリスがこちらにやってきた。 まずい。 もしかして、フリーフィールドで遭遇したのが俺だって気づいたのだろうか!? いやいや、俺は今包帯を巻いて、魔力制御もしているので、気づかれるはずはないのだが。 もし、俺の存在を知られている場合、俺が魔法を唱える『魔法系ジョブ』だとバレてしまう。 受付の男には、ジョブは『バックパッカー』と偽って伝えてある。 ズンセックや秋山からの情報では、剣聖のアリスは、魔法系のジョブを嫌っているらしく、運搬役であっても追い返されそうだ。 「……え?あなた……」 アリスが俺に話しかけてきた。 緊張が走る。
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