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小刻みなリズムが俺を落ち着かせようとはしない。むしろ、動揺している事をアリスに悟られはしないだろうかと焦る俺。
とりあえず、俺の心臓よ。止まってくれ。
「あなた……やっぱり、変よ?」
疑い出すアリス。
「いやいや、あ、アリスさん。おお俺は、どこにでもいる普通のプレイヤーですよ?」
震える唇のせいで上手く話せない。
誰がどう見ても怪しいよな。
「ううん、あなた絶対に変……」
更に疑われた俺。
すまん、秋山。あんたの依頼は無事に果たせそうに無い。
蒼の一撃のメンバーには、何事もなくに禁足地から帰還することを願うことにしよう。
諦めムードに対してアリスはこう言った。
「あなた……武器持ってないじゃない!絶対に変よ?」
「……ふぁ?武……器?」
「そう!武器。あなた、剣や槍を装備してないようだけど、何で攻撃するつもりなの?」
あ……。
そっちですか!!
確かに、これから危険な禁足地へ向かうのに、武器を所持してないプレイヤーは流石に変だよな?!
「大丈夫!俺、治……」
待てぃ!!
『治癒師だから』なんて言えるわけないっ!
自ら、魔法系ってバラしてどうするっ!
「え?何??ひー……」
考えろ、俺!!
ここさえ乗りきれば大丈夫な気がするっ!
脳を。
脳味噌をフル活用して打開案を導き出すんだ!!
古代詠唱並みのノータイムで、スパッと答えを引き当てるんだぁああ゛!!
うぉおおお゛!!
「ヒー……ロ……!!そうっ!俺は英雄だから、武器がなくても死なないのさっ!!あっはははは!!」
ははは!
ははは。
ははは……
はぁ?!
なに言ってんだ、俺?!
もっと、マシな言い訳出てこなかったのかよ?!
一体、俺の脳味噌には何が詰まってるんだよ。
おい、誰か俺の頭ん中開いて診てくれよ。医者はいないのか?医者ゃああ!
「え?!あ……うん。………へ?」
戸惑うアリス。
初めて話す相手に、それも異性に『2度聞き』される、この辛さよ。
一瞬にして凍てついた空気に耐えきれず、すぐさま俺は、伝家の宝刀である回復薬βを取り出し「皆さまが傷ついた場合、応急処置をさせていただく者でございます」と弁解した。
が、とき既に遅し。
疑いの目はま逃れたが、不審者を視るような眼差しは避けきれなかった。
ハーミットが近づいて、アリスに耳打ちをしている。
(あいつ、馬鹿そうだから、足引っ張らないように見張ってほしい)との事。
ハーミットさんよ……。
俺、聴力のステータス高めだから普通に聞こえちゃってるんですけど?!哀しくて何も言えないんですけど?!
禁足地に侵入する前から、俺のハートは既に盛大な死を遂げていた。
「あんた、すげぇな」
そんな俺に話しかけてくれたのは、先程話しかけてきた飛び入り参加の男。
「な、何がだ……」
「モンスターを狩るときでも眉一つ動かさない、あのド真面目でクールビューティーの剣聖の表情をあそこまで弛めたのは、あんたが、初めてじゃないか?!さっきみたいな素の表情、凄く可愛かったよな!!」
喜ぶ男。
ああそうかい。
あんただけでも喜んでくれるなら、まだマシだ。
ピンチになったら、真っ先に助けてやるからな、名も知らないおっちゃん!
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