第32話 後継者と秋山からの依頼

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小刻みなリズムが俺を落ち着かせようとはしない。むしろ、動揺している事をアリスに悟られはしないだろうかと焦る俺。 とりあえず、俺の心臓よ。止まってくれ。 「あなた……やっぱり、変よ?」 疑い出すアリス。 「いやいや、あ、アリスさん。おお俺は、どこにでもいる普通のプレイヤーですよ?」 震える唇のせいで上手く話せない。 誰がどう見ても怪しいよな。 「ううん、あなた絶対に変……」 更に疑われた俺。 すまん、秋山。あんたの依頼は無事に果たせそうに無い。 蒼の一撃のメンバーには、何事もなくに禁足地から帰還することを願うことにしよう。 諦めムードに対してアリスはこう言った。 「あなた……武器(・・)持ってないじゃない!絶対に変よ?」 「……ふぁ?武……器?」 「そう!武器。あなた、剣や槍を装備してないようだけど、何で攻撃するつもりなの?」 あ……。 そっちですか!! 確かに、これから危険な禁足地へ向かうのに、武器を所持してないプレイヤーは流石に変だよな?! 「大丈夫!俺、(ヒー)……」 待てぃ!! 『治癒師(ヒーラー)だから』なんて言えるわけないっ! 自ら、魔法系ってバラしてどうするっ! 「え?何??ひー……」 考えろ、俺!! ここさえ乗りきれば大丈夫な気がするっ! 脳を。 脳味噌をフル活用して打開案を導き出すんだ!! 古代詠唱並みのノータイムで、スパッと答えを引き当てるんだぁああ゛!! うぉおおお゛!! 「ヒー……ロ……!!そうっ!俺は英雄(ヒーロー)だから、武器がなくても死なないのさっ!!あっはははは!!」 ははは! ははは。 ははは…… はぁ?! なに言ってんだ、俺?! もっと、マシな言い訳出てこなかったのかよ?! 一体、俺の脳味噌には何が詰まってるんだよ。 おい、誰か俺の頭ん中開いて診てくれよ。医者はいないのか?医者ゃああ! 「え?!あ……うん。………へ?」 戸惑うアリス。 初めて話す相手に、それも異性に『2度聞き』される、この辛さよ。 一瞬にして凍てついた空気に耐えきれず、すぐさま俺は、伝家の宝刀である回復薬βを取り出し「皆さまが傷ついた場合、応急処置をさせていただく者でございます」と弁解した。 が、とき既に遅し(タイムオーバー)。 疑いの目はま逃れたが、不審者を視るような眼差しは避けきれなかった。 ハーミットが近づいて、アリスに耳打ちをしている。 (あいつ、馬鹿そうだから、足引っ張らないように見張ってほしい)との事。 ハーミットさんよ……。 俺、聴力のステータス高めだから普通に聞こえちゃってるんですけど?!哀しくて何も言えないんですけど?! 禁足地に侵入する前から、俺のハートは既に盛大な死を遂げていた。 「あんた、すげぇな」 そんな俺に話しかけてくれたのは、先程話しかけてきた飛び入り参加の男。 「な、何がだ……」 「モンスターを狩るときでも眉一つ動かさない、あのド真面目でクールビューティーの剣聖の表情をあそこまで弛めたのは、あんたが、初めてじゃないか?!さっきみたいな素の表情、凄く可愛かったよな!!」 喜ぶ男。 ああそうかい。 あんただけでも喜んでくれるなら、まだマシだ。 ピンチになったら、真っ先に助けてやるからな、名も知らないおっちゃん!
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