第32話 後継者と秋山からの依頼

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だが、ライの忠告に耳を貸す者は誰一人いなかった。『モンスターが現れ、一人殺された』という事実のみを知るや否や、皆眼の色を変えていたからだ。 『俺は殺されたくない』 闘える者だからこそ、そう思うのかもしれない。 相手はスライム。 隙を見せなければ、敗けはしないだろう。 そんな、傲りに似た場の空気が逆に冷静さを欠かせる結果となっている。 他の者も、突然現れたスライムに対し攻撃を仕掛けた。が、攻撃に力を籠めすぎるあまり、ガードが遅れた者はスライムからの斬撃に対処できずにいた。 「ちっ。後先考えてられねぇ」 ライはそういい、動こうとしたが、それを阻止した者がいた。 「何しようとしてるの?」 アリスだった。 「いや……」 「あなたは武器すらないのよ?まさか、本当に英雄ごっこでもするつもりなの?ここは私に任せなさい」 ライの手をひきアリスは護ろうとしている。 「グデンファー隊長、お願いします!!」 「うむ」 短い返事のあと、グデンファーはスライムに向かって構えた。 彼が取り出したのは、他の者が扱う剣とはオーラが違っていた。妖気に似た独特のオーラからは、身震いするような異質さを感じる。 スライムはグデンファーに飛びかかろうとした。そこまでは姿を見せていたが、グデンファーまであと1mくらいの距離まで近づいた瞬間、跡形もなく消え去った。 「は、速い……」 ライの素直な感想は言葉として生まれた。 「もちろんよ。彼の抜刀技術で右に出る者はいないわ」 このゲームは、キャラクターの成長に敏感である。敏感であるがゆえに、衰えにも敏感であるのだ。 ゲーム内で活動しない時間が増えれば、それだけ筋力や体力ゲージも減少する。逆に、鍛えれば鍛えるほど増える。 他のゲームであれば、レベルは下がらない。 勿論、このゲームもレベルは下がらない。 だが、筋力や体力、それに技術の切れ味は劣る為、トップで君臨し続けるのは努力も必要である。 グデンファーはこのゲームが始まってからずっと剣技で頂点に君臨し続けている。誰よりもこのゲームに時間を費やし、誰よりも技術に研きをかけてきた。 「爺さんなのに、衰えを感じさせないな」 「えぇ。常に自分を越える事に貪欲な方です。技術で言えば総隊長に並びます」
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