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無事に救出。俺は患者を背負い少しだけ移動したあと、アイテムを使用し応急手当てを終わらせた。
「俺は……あんたに謝らなくちゃならねぇ」
「ん?」
「心の中では、荷物持ちのあんたは、足切り要員としか思っちゃいなかった。強ぇモンスターが現れたりしたら、あんたを囮にして逃げちまえばいいとばかり考えてた」
「いいさ。かませ犬も時に必要なポジションさ。むしろ、俺からすれば、戦闘要員のあんた等がこれ以上欠けてもらっては困る」
「……すまねぇな」
「それより、危機はまだ去ってなんかいない……ここからは静かにしてくれ。どうやらお出ましのようだな……」
「これは驚きだ。餌がかかっていると思いきや、何もいないとは」
見た目は人間のようたが、ヒトとは欠け離れた姿をしている。言語を使用している点においては、俺達とかわりないが、圧倒的に異なる点がある。
身体全体が黒く硬そうな素材で覆われており、紅い筋肉の筋が露になっている。見た目はヒト型だが、同類とは全く思えなかった。
そして、
何より奴から溢れ出すオーラが妙だった。
通常であれば、強さを示す指標のひとつに『オーラ』がある。正確な値まではわからないが、感覚的に自分より強者なのか弱者なのかはわかる。
オーラを知ることは決して難しいことではない。
現実世界で「この人は苦手だな」と感じたり「関わるのは止そう」と思う相手が目の前に現れたときに感じる心の違和感。
あれと同じ。
自分に対し、敵意などの負の感情を察するあれだ。
ゲームの世界や、異世界特有のスキルではない。
『嫌な気配がする』
現実世界でも感じるあれだ。
だから、感じて当然の事である。
だが、その『オーラ』を、ヒト型からは全く感じないのだ。それに、さっき出逢ったスライムもそうだった。
斬撃をおうむ返しできる程の技量を持っていながら、奴らから危険な気配を感じなかったのだ。
流石に、凄まじいオーラを纏っていれば無闇に攻めこむ事もなかった。
だが、結果として返り討ちにされたのだ。
「さて、罠が誤作動したのか、それとも餌が逃げたのか」
俺と患者のギリギリ横を歩いている。
距離にして3mもないところ。
だが、白煙が床で滞留していることもあり、こちら側の認識阻害率も80%越えを常にキープしていた。
奴が近づく度に鼓動が早くなる。気づかれてしまうのではと不安に駆られるが、それでも皆俺の指示通り動かずにいてくれた。
「逃げたとして、捜すとなると面倒……だな」
よし。
まだ、奴は俺達が床に伏せていることに気がついていない。
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