第32話 後継者と秋山からの依頼

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無事に救出。俺は患者を背負い少しだけ移動したあと、アイテムを使用し応急手当てを終わらせた。 「俺は……あんたに謝らなくちゃならねぇ」 「ん?」 「心の中では、荷物持ちのあんたは、足切り要員としか思っちゃいなかった。強ぇモンスターが現れたりしたら、あんたを囮にして逃げちまえばいいとばかり考えてた」 「いいさ。かませ犬(アンダードッグ)も時に必要なポジションさ。むしろ、俺からすれば、戦闘要員のあんた等がこれ以上欠けてもらっては困る」 「……すまねぇな」 「それより、危機はまだ去ってなんかいない……ここからは静かにしてくれ。どうやらお出ましのようだな……」 「これは驚きだ。餌がかかっていると思いきや、何もいないとは」 見た目は人間のようたが、ヒトとは欠け離れた姿をしている。言語を使用している点においては、俺達とかわりないが、圧倒的に異なる点がある。 身体全体が黒く硬そうな素材で覆われており、紅い筋肉の筋が露になっている。見た目はヒト型だが、同類とは全く思えなかった。 そして、 何より奴から溢れ出すオーラが妙だった。 通常であれば、強さを示す指標のひとつに『オーラ』がある。正確な値まではわからないが、感覚的に自分より強者なのか弱者なのかはわかる。 オーラを知ることは決して難しいことではない。 現実世界で「この人は苦手だな」と感じたり「関わるのは止そう」と思う相手が目の前に現れたときに感じる心の違和感。 あれと同じ。 自分に対し、敵意などの負の感情を察するあれだ。 ゲームの世界や、異世界特有のスキルではない。 『嫌な気配がする』 現実世界でも感じるあれだ。 だから、感じて当然の事である。 だが、その『オーラ』を、ヒト型からは全く感じないのだ。それに、さっき出逢ったスライムもそうだった。 斬撃をおうむ返しできる程の技量を持っていながら、奴らから危険な気配を感じなかったのだ。 流石に、凄まじいオーラを纏っていれば無闇に攻めこむ事もなかった。 だが、結果として返り討ちにされたのだ。 「さて、罠が誤作動したのか、それとも餌が逃げたのか」 俺と患者のギリギリ横を歩いている。 距離にして3mもないところ。 だが、白煙が床で滞留していることもあり、こちら側の認識阻害率も80%越えを常にキープしていた。 奴が近づく度に鼓動が早くなる。気づかれてしまうのではと不安に駆られるが、それでも皆俺の指示通り動かずにいてくれた。 「逃げたとして、捜すとなると面倒……だな」 よし。 まだ、奴は俺達が床に伏せていることに気がついていない。
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