1041人が本棚に入れています
本棚に追加
俺と助けた男は息を殺して潜む。
物音を立てぬよう、細心の注意は忘れない。
認識阻害率が100%でなくても案外気づかれないものである。
潜むことに徹すれば気配は消せ、察知されることなく場をやり過ごせる。
恐怖。怯え。不安。
負の感情に支配されることさえ恐れなければ、まだ生きる道はある。
このまま……
このまま、何事もなく過ぎればいいと願った。
しかし、奴がこの場を去ろうとした瞬間、
血の気の多い人間が1人立ち上がっていた。
持っている剣を握りしめ、無防備な背中を目指す。
「くたばれぇ!!」
独り、攻撃するという選択肢をとってしまった彼は蒼の一撃ではない。
だが、奴の剣技を見る限り、蒼の一撃からスカウトされても不思議ではない程の腕前だった。
彼の技量をもってすれば、相手の隙を狙い攻撃に転じたいと思うのも無理はない。
現れたヒト型の背後を完璧に取っていた。防ぐことも、回避することも出来ないタイミング。
このままクリティカルヒットであれば、倒せるかもしれない。
潜みながら見ていた者の中で、そう思った者も少なからずいたに違いない。
「やはり隠れていたか」
背後を確認することなく、呟いたヒト型。
奴は背を向けてたまま呟いた。
そして、程なくして、
男は首を捥がれた。
他の者も相手の様子次第では加勢しようとしていたが、あっさりと殺られた事に対して動揺を隠せず、そのまま身を伏せていた。
「……。どうやら、餌の一匹だけのようだな」
飛び出し、そして命を取られた者だけが、認識阻害率が極端に減少した。それ以外の俺達は、微動だにせず伏せていた為、気づかれるまでには至らなかった。
(あ、あいつは何なんだ……)
怯えたまま、頭を抱える患者 。
俺は、古代詠唱を詠唱し奴の情報を盗んだ。
魔方陣を出現させることなく、奴に気づかれることない。
種族はデーモン。素早さ攻撃力ともに平均なプレイヤーと同等であった。
しかし、この数値は信じがたい。
この数値ぐらいであれば、先ほどのプレイヤーが命を落とすこともなかった。
だが、あのデーモンは襲撃に対し反応した。
もし、空間把握能力が長けているのであれば、初めの段階から俺達が伏せていることも気づくはず。
最初のコメントを投稿しよう!