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(倒せるはずがない)
ガタガタを震える患者。無理もない。目の前で首を無理やり捥いだのだから。
気分が優れなくて当然だ。
(見ろ。奴は行ったぞ)
デーモンがこの場から居ないことを確認した俺は、その場で立ち上がった。
俺の姿を見るなり、次々と立ち上がる一同。しかし、その姿は怯えた草食動物のよう。
「な、なんだったんだ……今のは」
ざわつくプレイヤーに対し、アリスが声をあげた。
「静粛に。あのヒト型モンスターが現れたあと、魔法のような反応を確認しました。人の首を取る程の力があったのは、恐らく強化系の類いでしょう。魔法の発動を見極めれば勝機はあります。先に向かいましょう」
「先に向かいましょうって言われてもな……」
困惑する雰囲気だけが広まる。
なるほどな。
魔法の発動を察知できるアリスならば、その考えに行き着くのも納得できる。
だが、やはり分析が甘い。
奴は魔法等を発動してはいない。
アリスが感じた魔法は俺が発動した古代詠唱だ。
しかし、俺がこれ以上アリスを頭ごなしに否定しても士気が下がるのは必至。
伝えるべきがどうか……
「アリス君。1ついいかな?」
俺が悩んでいると、良い声が流れを絶ちきった。
「も、もちろんですグデンファー隊長!どうされましたか?」
「今回の指揮官は間違いなく君だ。ワシみたいな老兵の言葉など聞き流してくれて構わないとだけ先に言わせてもらおう」
「そ、そんな!何でも仰ってください」
アリスが謙遜しつつグデンファーの言葉を聞き出そうとしている。
「先ほど現れたヒト型は、この禁足地に住む生き物だろう。奥に進むとなると、先ほどの者との対峙は避けては通れぬだろう。
Dr.徳永。君はアリス君に『勝てる保証』の話をした。どうだろう、あのヒト型に対して『勝てる保証』があるのか、君の見解を伺いたい」
グデンファーは俺に話を振ってきた。
俺が何か言いたそうなのを察していたようだ。
「んまぁ~、あのデーモンに対して奇襲の類いが通用しないとなると、正面からぶつかるのも有りかもしれないな。奴の能力の全てが強いのであれば、宝箱の罠なんかをわざわざ仕掛けなくても、プレイヤーを殺せるはずだ
認識阻害率は85%で身を屈めていれば気づかれずに済んだ事を考慮するならば、奴を倒す手段はあるかもな」
「やはりそうか」
グデンファーが意味ありげな返事を返してきた。
「ん?何がだ?」
「Dr.徳永。君は、あのヒト型モンスターの種族を『デーモン』だと断言している。
デーモンなんて種族は禁足地に踏入れるまでは一回も登場していない。にも関わらず、君は『デーモン』だと断言した。
君の知識量が凄いのか、それとも相手をサーチする能力でもあるのかな?」
グデンファーからの問いは真意をついていた。
蒼の一撃と同行する際『魔法使用の禁止』を言い渡されていた。そのルールは護ってほしいとの事。
蒼の一撃の拘りかは知らないが、ノータイムで密かに発動している俺に対し、グデンファーは疑いをかけているのだろう。
決定的証拠が掴めないので探りをいれている一方で、俺がクエスト慣れをしている点も活用したいようだ。
洞察力、判断力、決断力。
どれをとっても、この恰幅のいいじーさんは超1流のようだな。
「お荷物要員の戯言さ」
俺はそう言い、誤魔化した。
「戦場において、無駄話も案外役に立つ。どの道、さっきのようなデーモンに勝てないようじゃ先には進めないし、戻ろうにも出会す可能性もある。
Dr.徳永くんが言った、倒せる手段について話を深めてはどうだろう」
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