第32話 後継者と秋山からの依頼

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「なんて戦い方だ……」 空虚に揺れた曖昧な空間に、異物を出迎えるかのように、呟きが徐々に近づく。 「己の喉を差し出して敵の隙を生み出すとは。無防で無謀だが、何処か懐かしい戦い方だ。Dr.徳永、どうやら君の本職が見えたようじゃな?」 「安心するなよ?周りをみてみろ」 グデンファーと無駄な会話をする気はない。馴れ合う時間がある程優しい世界だとは1ミリも思えないからだ。 立ち止まれば無防備。いつどこから新たな追手が現れるかわからない。 むしろ、出現(ポップ)しない方が少ないはずだ。 ここは禁足地。許された安置なんてある筈がない。 俺はデーモンを指差し、周りにいる者に情報を共有した。 「今、仕留めてもらった、このデーモン。種族は『レーサーデーモン』と表記されている」 倒したモンスターは一体。だが腕に自信があるプレイヤーを倒せる程の力は持ち合わせていた。 「倒せた奴が、下級(レッサー)……だと?」 蒼の一撃のメンバーからも溜め息が漏れた。 「ここまでして、禁足地に潜る必要あるんですか……」 「それは……」 部下からの問いに言葉を詰まらせるアリス。見たところ、アリスはメンバーにこの地に来た本当の理由をまだ伝えてない様子。 知っていそうなのは…… グデンファーとアリスの二人だけのようだな。 明らかにトップ2人と、それ以外で少なからず溝が生じていた。 「なぁ……ひとついいか?」 「いぇ、今は発言しないでください。メンバー達に……」 俺の言葉を遮ったアリス。 まぁ、このメンバーをまとめることを任されたトップであれば、部外者の俺の言葉は目障りかもしれない。 だが、そんな事を構っている余裕なんてない。 「どうした、アリス。メンバー達に何を伝えるんだ?また、薄っぺらの嘘で従わせるのか?」 「そ、それは……」 アリスが躊躇した隙に俺は話を続けた。 「みんな、この禁足地に来て、良かった事はあるか?」 突然の俺の問いに、みな言葉を失った。 「お、お前、こんな状況で何言ってるんだ!!ふざけるのも大概にしろ!!俺たちは死ぬかもしれないんだぞ……」 怒りの矛先が俺に向いた。 だが一方で、独りがボソリと返答をした。 「た、宝箱……」 「ははは。あんたのいう通りだ。宝箱があるダンジョンで、且つレアなアイテムが入手できるのは予想外だったな。目的が明確で報酬があると『わくわく』した……だろ?」 黙り込む一同。 (アリス君……) (えぇ。彼が『わくわく』という言葉を使った瞬間、殺伐とした空気が晴れた……) (Dr.徳永……この者の求心力は計り知れない) 「どうやら、アリスとグデンファーはお前達に隠している極秘任務があると俺は睨んでいる。飛び入り参加した俺たちだけでなく、メンバーであるお前達にさえ知らされていない任務。 ……どうせ死ぬなら、知りたくないか? ……どうせ生きてるなら、極秘任務を共有して『遂行』してみたくないか? 教えてくれるよなぁ、アリスかグデンファー」 俺は笑いながら2人にバトンをパスした。 アリスに対し視線が集まる。 だが先ほどまでの曇っていた瞳とは違い、この場にいる者全員が期待するような眼差しでアリスを見ていた。
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