1041人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんて戦い方だ……」
空虚に揺れた曖昧な空間に、異物を出迎えるかのように、呟きが徐々に近づく。
「己の喉を差し出して敵の隙を生み出すとは。無防で無謀だが、何処か懐かしい戦い方だ。Dr.徳永、どうやら君の本職が見えたようじゃな?」
「安心するなよ?周りをみてみろ」
グデンファーと無駄な会話をする気はない。馴れ合う時間がある程優しい世界だとは1ミリも思えないからだ。
立ち止まれば無防備。いつどこから新たな追手が現れるかわからない。
むしろ、出現しない方が少ないはずだ。
ここは禁足地。許された安置なんてある筈がない。
俺はデーモンを指差し、周りにいる者に情報を共有した。
「今、仕留めてもらった、このデーモン。種族は『レーサーデーモン』と表記されている」
倒したモンスターは一体。だが腕に自信があるプレイヤーを倒せる程の力は持ち合わせていた。
「倒せた奴が、下級……だと?」
蒼の一撃のメンバーからも溜め息が漏れた。
「ここまでして、禁足地に潜る必要あるんですか……」
「それは……」
部下からの問いに言葉を詰まらせるアリス。見たところ、アリスはメンバーにこの地に来た本当の理由をまだ伝えてない様子。
知っていそうなのは……
グデンファーとアリスの二人だけのようだな。
明らかにトップ2人と、それ以外で少なからず溝が生じていた。
「なぁ……ひとついいか?」
「いぇ、今は発言しないでください。メンバー達に……」
俺の言葉を遮ったアリス。
まぁ、このメンバーをまとめることを任されたトップであれば、部外者の俺の言葉は目障りかもしれない。
だが、そんな事を構っている余裕なんてない。
「どうした、アリス。メンバー達に何を伝えるんだ?また、薄っぺらの嘘で従わせるのか?」
「そ、それは……」
アリスが躊躇した隙に俺は話を続けた。
「みんな、この禁足地に来て、良かった事はあるか?」
突然の俺の問いに、みな言葉を失った。
「お、お前、こんな状況で何言ってるんだ!!ふざけるのも大概にしろ!!俺たちは死ぬかもしれないんだぞ……」
怒りの矛先が俺に向いた。
だが一方で、独りがボソリと返答をした。
「た、宝箱……」
「ははは。あんたのいう通りだ。宝箱があるダンジョンで、且つレアなアイテムが入手できるのは予想外だったな。目的が明確で報酬があると『わくわく』した……だろ?」
黙り込む一同。
(アリス君……)
(えぇ。彼が『わくわく』という言葉を使った瞬間、殺伐とした空気が晴れた……)
(Dr.徳永……この者の求心力は計り知れない)
「どうやら、アリスとグデンファーはお前達に隠している極秘任務があると俺は睨んでいる。飛び入り参加した俺たちだけでなく、メンバーであるお前達にさえ知らされていない任務。
……どうせ死ぬなら、知りたくないか?
……どうせ生きてるなら、極秘任務を共有して『遂行』してみたくないか?
教えてくれるよなぁ、アリスかグデンファー」
俺は笑いながら2人にバトンをパスした。
アリスに対し視線が集まる。
だが先ほどまでの曇っていた瞳とは違い、この場にいる者全員が期待するような眼差しでアリスを見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!